二章:お兄ちゃんと周りの人たち その1
僕、咲宮 束叉は週に二、三日程度アルバイトをしている。
両親からの仕送りがあるから生活費は困っていないけれど、自分の趣味のためのお金を仕送りから捻出するのは気が引ける。
以上の理由から知人のお姉さんが営んでいる骨董品店で働いているわけだ。
と言っても客の入りは殆どなく、仕事と言えば知人が趣味で買ったガラクタの整理ばかり、今もよくわからない板みたいなものを段ボールから取り出しているところだ。
「
店の奥のカウンターで堂々とタバコの煙を吹かしているのが僕の知人でこの店の店主のお姉さん、
亜麻色の髪が印象的な女性。
細くて背が高くてスタイルがいい、顔も良くて一見するとモデルみたいな人だ。
「余計なものという言い方は感心しないな少年、君にとってはガラクタであってもほかの人間から見れば価値あるものということもあり得る。ものの価値と言うのは安易に決められる物じゃない」
でもこの物言い、何と言うか一般人と少しずれている。
彼女の美貌に心奪われた男性は喋ったとたんに肩を落とすことが間違いないだろう。
「じゃあなんなんですこれ?」
僕は段ボールから取り出した板を舞華さんに見せる。
「ウィジャボードと言ってな、海外版のこっくりさんと言うのが分かりやすいかな?」
「幽霊でも呼び出すんですか?」
「いいや、死者には興味はないね」
「じゃあ何か聞きたいことでも?」
「それもないな、この世の謎は自ら探求してこその人生だ」
「やっぱり余計なものじゃないですか」
僕はため息を吐きながらウィジャなんとかだか言う板を段ボールに戻した。
「これいつもの倉庫に置いとけばいいですか?」
「ああ、よろしく頼むよ」
私物を店内に置いとくなよとか思いながら僕は段ボールを持って店を出て裏手にある倉庫に運んだ。
ものであふれた倉庫に段ボールを置いてから店に戻る。
店内に戻ってくると舞華さんは二本目のタバコに火をつけながら珍しく新聞を眺めていた。
「新聞なんて珍しいですね、俗世に興味ないとか言ってたのに」
「ああ、君の写真が掲載されていると聞いてな」
少しどきりとした。
去年あたり、うちの地域でアマチュアの写真コンテストがあって、僕はそれの最優秀賞をありがたいことに受賞した。
舞華さんが見ているのはその新聞記事だろう。
こういうのにあまり関心を持っていないつもりだったが知り合いに見てもらえるのは嬉しいものだな。
「それ去年の新聞ですよ」
なんて照れ隠しで口にした。
「それはお前が言わないからだろう、情報を仕入れるのに時間がかかったうえにこいつを手に入れるまでに今までかかってしまった。いやしかしいい写真だなこれは――生命力と愛が溢れている」
芸術家肌の舞華さんがここまで褒めるなんて珍しい。
なんて思うと同時に自分が撮った写真を褒められてなんだかむず痒い感じだ。
「被写体がいいんですよ」
「そうだな、この被写体でなければ君の実力いや、潜在的に隠された力と言うべきか、それは引き出されないだろうな――彼女は君の恋人かなにかなのかな?」
「――妹ですよ」
そうかと呟いた舞華さんは腑に落ちない様子だった。
俺は頭の中で賞をとった写真を思い出す。
あれは明け方の公園で叉鬼がこっちに振り返っている写真。
朝焼けと叉鬼の笑顔。
あれは自分でもいい写真だと思う。
叉鬼の魅力がよくわかる。
僕にとって重要なのはそこだ。
叉鬼が美しくある瞬間を残す、彼女の魅力を映し出す。
だって僕はファインダー越しでないと彼女に向き合えないから。
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