第10話 野犬の怪

 栃木怪談も10話目になります。沢山の方々から応援を頂き、誠にありがとうございます。


 今回の作品を作るに当たり、記憶を頼りに、1話目から9話目迄、現在どうなっているか確認してみることにしました。スピンオフは広範囲になるので、またの機会として、あれから何十年も過ぎております現在を記録したいと思い立ったからです。


 怪奇な経験をした事を、時系列に整理いたしまして、私の体験した年齢を重ねて、あえて題名をそれぞれにつけてみますと、一番古い記憶が6話目の「人身事故」が9歳の時。次が8話目の「森の廃屋」も9歳。で、7話目の「廃工場の一男君」が10歳。3話目の「隧道の女」が11歳。4話目の「木乃伊」が中学生になった14歳。次からスピンオフの時代となりまして、社会人となって、栃木に戻って1話目「夏の女の子」が28歳。次が2話目の「山道にて」30歳。栃木に勤務が定着した頃に遭遇したのが5話目「ダムの子」37歳。そして9話目「キャンプ場のブルカ」に遭遇したのが39歳でした。

 

 時系列通りでは効率が悪いので、自宅に近い所から回ろうと考えました。


 自宅から遠い所、2話目の「山道にて」と5話目「ダムの子」、そして9話目のキャンプ場は、今でも行く事に躊躇いたします。

 

 6話目の実家は、現在も93歳になる、やたらと元気な母が一人暮らししております。自宅からも直ぐ近いのでしょっちゅう行っております。また、私の妻と姑である母は、大変仲が良いので、情報は常時入ってきます。


 その後、元々メインストリートだった道の交通量が増大し、別に広いバイパスが出来た事から交通量が減って、上下水道工事や区間整理があり、交通安全祈願の観音像は檀家になっている寺に奉納したそうです。その後は、ずっと大きな事故もなく今日に至っている様です。


 ただ、事故はなかったのですが、忘れられない事件はあったとの事でした。


 観音像を奉納した直後、この周辺に突然、大型犬だけの野犬集団が現れ、警察や保健所での捕獲が大変だったそうです。ただでさえ野良犬等ほとんど見かけないのに、皆大型犬の10頭前後の集団で、襲われた被害者も出て大騒ぎになったとの事。


 その頃すでに上京していた私には知らない事件でした。


 中々警察や保健所に捕まらない賢い連中だったらしいのですが、ある朝、実家の脇の、交通事故が起きた交差点に野犬が集合して大騒ぎしていたそうです。

 危ないので、皆家から出ず、警察に連絡して、警察官と保健所職員で一網打尽に出来たそうですが、何故犬達は、そこに集まって皆逃げなかったのか。

  2階の窓から一連の捕獲を見ていたという、母と祖母から聞いて驚きました。


 冬の早朝に、大型犬10頭が交通量がそれなりにある通りの交差点に集まって、車が来ても退かずに大騒ぎしていたとの事。


 物凄く風が生臭く、何が起きたんだ?と、家中の雨戸を開けず、2階の窓から見ておりますと、観音像を撤去した側を全ての犬が向いて大騒ぎをしております。

 よく見ると、その騒ぎの真ん中に、リーダーと思われていた真っ黒いアメリカン・ピット・ブルテリアのような犬が横たわっているのが見えます。その周りは大量の血液らしきものが道路を覆い、そのリーダー犬の頭が見えません。


 やがて警察の特殊車両が来て、次々と犬を捕獲して行きましたが、その後に現場検証の様な事をしております。母が、窓から、

「もう、家から出ても大丈夫ですか?」と、警察官に聞いたところ、

「もう野犬は、全部捕獲しましたから大丈夫ですが、こちらにはまだ入らないでください。」と言われ、

「その角は家なんですが。」と言いますと、警察官が相談して、

「では、お一人だけ、お話を伺いたいので、こちらに来て頂いてよろしいですか?」と言われ、母が、

「では、私が今行きます。」と言って、出て行きました。そして、母には一生トラウマとなる光景を見てしまったのです。


 最初は、元観音像があった所に、まだ黒い犬が居ると思ったそうです。が、よく見ると、黒い犬の首だけ。犬の生首が置いてあり、胴体は道路に横たわっておりました。

 おびただしい血液が道路一面に広がり、周りの歩道や脇道にも血液による沢山の犬の足跡が大量についていたのでした。


 警察官によると、

「交通事故で首だけ綺麗に斬られるとは考えられないし、首だけ観音像があった事は、わざと置いたとしか思えない。人為的に思えるが、当時大量の大型犬に囲まれている状態でリーダー犬の首だけ刎ねるなんて余程の剣豪か。通常考えられない。」との事でした。その後は野犬も居なくなり、交通事故も起きてはいないとの事でした。  了

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