第8話 月に2回一緒にいるだけの関係


 

私たちは同じ学校に通うけど別に特別仲が良いわけじゃない。

同じ教室で授業を受けるけど休み時間や放課後に一緒に帰ったり話をすることはない。

でも、月に2回偶数週の土曜日に一緒に会う。


今日は都心のオシャレなカフェに来ている。私の前に座り美味しそうにやたら名前の長いスイーツを頬張る女子は七海。さっきまで様々な角度で写真を撮っていたのだが満足したのか躊躇いなくフォークを刺す。

そんな彼女を眺める私は静かにミルクティーを飲む。上にホイップクリームが乗っていて見た目はかなり甘そうに見えるがそこまで甘くなく、意外に美味しい。

 

私たちの関係にはルールがある。

・月に2回お互いのやりたいことについて行くこと。

・自分のターンの時は自分のことしか考えない。

・相手のターンの時は相手に全てを合わせる。

・その月に使用する金額は月の初めに決め、その中でやりくりする。

・新しく挑戦することってうまくいかないよね。

 

最後のは心の持ちよう。

今までやったこともない、でも興味があることをしてみるときはうまくいかないことの方が多いから、何かあっても「あはは」で済まそうと言うことになっている。

そして恐らく彼女が頼んだ食べきれない量のスイーツを私も食べることになるのだろう。写真では分からなかったが、実際見てみたら量がかなり多かった。甘いのは好きではないのだが、仕方がない。七海が全部食べて気持ち悪くなるよりはマシだろう。

 

きっかけは図書館。私が京都の雑誌を眺めていた時だった。旅行に行ってみたいけど友達と行ったら好きなところ回りきれないだろうな。でも、一人で行くのはな……。なんて考えていたら七海がこっちを見ていた。

特に話すわけでもないクラスメイト。それが私たちの関係。気まずくて気づかないふりをしてしまったが、向こうも声をかけてはこなかった。

それから少し経って、また雑誌を見ようと思い図書館に行ったら今度は先に七海が見ていた。

視線が合う。

今度は気づかないふりができなかった。

「行きたいの?」

そう言ったのは七海からだっただろうか。それとも私から––––。

 

月2回、それぞれの趣味に付き合う。

気になるけど一人じゃできないこと。

相手のことは考えない。それはお互い様。でもこの距離感が疲れなくて心地良い。それに相手の好きなことに付き合うのは新鮮で楽しい。クラスの子たちは誰も知らない。やめたいと思ったらいつでも切れる縁だけど、まだ続けていたい。

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ひとくちサイズのショートストーリー あおい @aoiyumeka

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