第7話 もの探しの精霊

無くし物を探していると「あれ、ここさっき探したはずなのに」なんて所にあったりすることはありませんか?

もしくはスマホを探していたら手に持っていた。何故か冷蔵庫の中に入っていたなんてこともあるかもしれません。

実はそれ、精霊たちの仕業なんです。今日はそんな彼らの仕事の様子を覗いてみましょう。


 

「ではこれから実際に職場の見学をしてもらいます。私たちの仕事で絶対に守らなくればならない規則は何か覚えていますか?」

新人担当のナナが研修生のトトに聞く。

「私たちの存在を人間にバレては行けないということです」

トトは神妙な面持ちで答えた。

「そうです。我々は絶対に人間にばれてはいけないのです。以前別の支店で人間に勘付かれた事があり、関わった精霊たちは皆職を失いました。不名誉な事なので再就職も厳しいでしょう」

憐れむようにナナが言った。

トトの顔色が悪くなる。

「ですが、ただバレない様にすればいいというわけではありません。私たちはこの仕事に誇りを持っており、プロであると自負しております」

ナナの目が静かに光った。

「物探しをする上で、ただ見つけるのではなく、スピードや意外性など人間を楽しませる工夫を数多くしています。新人の間はバレない様にすることを大切にしてもらいますが、慣れてきたら様々なことに挑戦してもらいますので頑張ってください」

ナナがにっこり笑った。

「では実際に先輩方が働く姿を見てみましょう」

 

 

ケース1 綺麗に整頓された部屋

「まずは比較的簡単なケースです。こちらの方は物は多いですが収納道具を駆使して綺麗に整頓してあります。新人の方がよく担当する仕事ですね。今回はしまうところを間違えてしまったために見つからず焦っている様です。まず我々が部屋の隅々まで探し回り見つけます。次にバレない様に目に付く所に置きます」

光の速さで精霊たちがペンを机の上に乗せる。

しかし持ち主は全く気が付かず見当違いの場所を探し続ける。

「中々気が付かないみたいですね」

トトが心配そうに呟く。仕事中の精霊たちも慌てている様だった。

「そうですね、このような場合もたまにあります。新人たちでは対処できないのでベテランの方が呼ばれます。……あ、来たみたいですよ」

ナナが指差す方に目を向けると数名の精霊たちが到着し何やら責任者らしき者と話している。自信に満ち溢れたその表情は彼らがエリートだということを物語っていた。

「この後どうなるんですか?」

トトが聞いた。その目は好奇心を隠しきれていない。

「彼らが来たからもう大丈夫でしょう。見ていて下さい」

ナナが言った。

彼らは慎重に机の上のペンに近づく。人間が振り返ったり、動いたりする度に見つからないように姿を消す。後ろを向いたら近づく、まるでだるまさんが転んだのようだ。

時間がないのか人間は苛立ちを隠せず、以前より忙しなく部屋を動き回る。

辺りに緊張感が漂った。

新人たちは遠巻きに固唾を飲んで見守っている。

新人の視線に見守られながらベテランたちは臆することなく近づき、ペンの横でコトッと小さな音を立てた。

その微かな音が人間の耳に届き振り返る。もちろん精霊たちは姿を隠している。

 

 

「今日さー、ペンが無くて探してたら危うく遅刻する所だったんだよ」

「今日はギリギリだったね。ペンくらいコンビニで買えばいいじゃん」

「だめだよー。あれお気に入りで、あのペンじゃないと気合が入らないの」

「遅刻するより良くない?」

「んー、でも見つかってよかった。めっちゃ探したんだけどなんかテーブルの上にあったんだよね」

「何それ、おっちょこちょい過ぎでしょ」

「ちゃんと見たはずなんだけどなー」

オフィスカフェで女子二人がクスクス笑う。

「さてもうすぐ休憩終わるし午後も仕事頑張りますか」

「プレゼンあるし頑張ろ」

二人は立ち上がり職場に戻る。

 

精霊たちは今日も人間たちの失くしものを探している。

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