第11話 もうしらないよ

「息抜きしたい時はいつでもおいで」

「違うものも抜いてくれる?」

「若い子のは好きよ?」


──────行きつけのスナック。


「いらっしゃい」


僕が疲れた顔でカウンター席に座るとママが出てきて後ろから僕を包み込んだ。


「お疲れ様。」

「ねぇ…」

「なに?」


僕は振り返って胸の中に包まれた。


「だから言ってるでしょ。潰れる前においでって。あなたは昔から守られたい方なの。なのに強がるから。」


この人は僕の同級生。元男。今は全部女。

こいつもこいつでめんどくさい。

母親みたいに耳が痛い事を沢山言ってくるから。でも、居心地が良くて来る。


「七海…?」

「うん?なに。」

「……。」


彼女の目を真っ直ぐに見ると、

黙っ立ち上がって抱きしめてくれた。


「……。」

溜まってたものが溢れ出した。


「いいの。それでいいの。あんたはこれでいいの。」


「……ダサいよ。」

「ダサくない。溜めてる方がダサいよ。」

「もうキツいよ…。」

「それでいいの。ちゃんと吐き出せる場所は必要だよ。」


「七海……」

「稜太は頑張り屋だからね。昔から。あのこのためならって無理ばっかりしてる。あの子も甘えたがりだからね…。あんたは潰れるよ。目に見えてたでしょ。」

「俺が弱いから。だからダメなんだ。」

「弱くてもいいよ。私はそう思ってるよ。」


「……かけとわかれたくない」

「別れなくてもいいと思うよ。でも私は心配。」

「お前といたらダメになる」

「なんで!」


七海が吹き出して笑った。


「俺は甘えるしお前は潰れる。だからどうせお前も他に必要になる。」

「……じゃあさ、あんたはかけるを逃がさないために自分を殺すの?」

「……。」

「どうなの?」


これが嫌い。うるさい。黙ってれば綺麗に可愛いのに。


「帰る。」

「稜太!帰さないから。帰ってどうすんの?」

「…いつもと一緒。」

「ほんとにいいの?」

「じゃあ俺と翔離したいの?」

「そういうわけじゃない。でもさ、見てられない。こんな状態になってんだよ?」

「……うん。」


七海は僕の顎を上げて僕の目を見た。

でも僕はその手を払った。


「いいよ。大丈夫。ほっといて。」

「知らないよ?潰れても」

「もういい。」

「……誰も信じたくない。」

「…翔は?あの子も信じてないの?」

「…わかんない。」

「…でも怖いんだよね?」

「うん。全部は出せない。」


「稜くん」

「うん」


七海はまた僕を抱きしめた。


「だからやめろって。」

「やだ。やめない。」

「……俺は嫌。」

「知らないよ?どうなっても。」

「いい。」




─────────帰り。


赤信号の交差点をわざと進んだ。

そして案の定……。


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