第9話 今でも怖い
翔は狭いところや個室が嫌い。漫画喫茶の個室も、居酒屋の個室も、電話ボックスも、トイレの個室も家では扉をあけるほど。
この間もリゾートホテルのような所に泊まりにいって、たまたまやってたテント型のプラネタリウムに入った。翔は宇宙やロマンチックなものが好き。
この時も、『稜…2人ならいけるかな?』と恐る恐るだった。
もう最近はほとんど右耳も聞こえてなくて僕からは手話で話すことも増えた。
でもプラネタリウムは完全に暗がり。手なんて見えない。だから、寝転びながらずっと手を繋いでた。
そのうちに翔は怖くなって僕にくっついて来たので翔の腕を片手で軽く叩いてその中から出た。
翔は申し訳なさそうに「ごめんね…」と言っていたが『気にすんな。今度家でプラネタリウム買ってみよ?』と言うと、
「そうする!」と笑ってくれた。
翔がこうなったのは小学生時代。
いじめの標的だったころ、よく狭いところに入れられていた。トイレや、掃除用具の中など。
大体は僕が見つけて助けてた。
当時はまだ兄貴みたいな感覚だったけど、
僕が中3で翔が中1の頃には少し変わってきてた。
『本当に大事な人を虐められてる』という感覚の方が強くて、何回か相手に馬乗りになって殴りかかってるところを、翔に引き離された。
でもそれがあって翔は虐められなくなった。
でも僕が卒業して、翔が2年生になった時に一回似たようなことがあって、その時も翔に止められた。
多分、その時に初めて翔にキスした。
翔は驚いてたけど、ちょっと照れくさそうだった。
───────────────「かけ。」
「うん?」
「昔の事思い出してた」
「いつくらい?」
「お前が中2くらい?の時。」
「可愛かった?」
「可愛かった。」
「……りょう。」
僕はベットに座って隣で話す翔の肩を抱き寄せた。
「あいつら、ぶっ殺しても良かったんだけどな。」
「それはダメ。」
僕は胸が締め付けられて…強く…強く…華奢な翔が壊れそうなくらい抱きしめた。
「あの時確かに辛かった。今でもたまに思い出す。でも、僕ももう大人だし、こうやってそばに稜太もいてくれる。だからもう僕は辛くもないし怖くもないよ?毎日楽しいし、『死にたい』って思うこともない。」
「そんな事思わせない。…あいつら探して殺していい?
「いい。何もしなくても。ほら、こうやって僕生きてるし、今僕は稜といて幸せだよ。」
「……。」
「稜太、大好きだよ。」
翔を腕の中に入れておくことが昔から僕自身の安心だった。
「かけ。」
「うん?」
「もしかしたら俺、昔からお前の事好きだったかも。」
「だと思うよ?」
「え?」
「好きじゃなきゃあんなに男の僕を抱きしめたりしないよ。」
「可愛かったから。」
「『とられたくない』とか思ったこともあるでしょ?」
「……」
翔を胸の中に包み込んだ。
「僕らはこうなる運命だったの。きっと生まれた時から。」
そう言いながら上目遣いで僕を見る…。
(あぁ…無理。耐えられない。)
翔は僕の胸に手を当てて受け入れた。
僕はその手に自分の手を重ねた。
小学生くらいからだと思う。
僕は2つ上。だから、少し先を歩いてた。
その中でただの欲なのか、こいつから出る何かなのかが分からなくて抑えてた。
でもこの目をされると、胸が締め付けられてこいつに触れたくて仕方なかった。
「かけ…」
「うん?…」
「もう無理。ガマンできない。」
「大丈夫。まだ我慢出来る。」
僕が手話で伝えているとその指先に触れられた。
「っ……」
「僕は虐められるのは好きじゃないけど稜太をいじめるのは大好き。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます