第4話 隠し事
──────カフェ。
髪は茶色で肩まで伸びてて耳は隠してる。
もうほとんど聞こえないけど、左耳には補聴器をしてる。右耳には最近僕があげたクロスのチェーン付きのピアスを付けてて、首には僕があげたネックレスをしてる。そして右手の薬指には指輪を付けさせてる。悪い虫がつかないように。…って俺は女か。
…トイレに行って帰ってきた時に物陰から翔を見てた。奴は本当に可愛い。目が優しくて肌が白くて、手足が長い。指も細くて長い。首も細くて白い。喉仏もほぼない。けどそんな可愛いあいつが本当はねちこくて意地悪でやらしい奴なのを僕は知ってる。
──────にしても可愛い。
「おかえり」
「ただいま。」
「さっき僕の事見てたでしょ?」
「え?気のせいじゃね?」
「そうかな。」
「…見てたよ」
翔に少し悲しい顔をされたので自白した。
「なんで?」
「…可愛いから。ずっと見てたかったから。」
「ここで見てればいいじゃん」
翔はたまにポーカーフェイスになる。こうやって淡々と話す時は感情を隠すとき。
多分…寂しかったんだと思う。
「ごめんな。すぐ戻ってこなくて。」
「いいよ。許してあげる」
やっぱりそうだ。
「…にしても可愛い。」
「可愛い?」
「うん。」
「どこが可愛い?」
「…女か。」
「…最近思うんだよね」
「うん?」
「体はこのままでいい。けど、もっと可愛くなりたいって。でも…稜太とのそういう時はそのままがいい。…変なのかな?」
翔は元々柔らかくておっとりした優しくて可愛い子。悩みも多かったと思う。
「変じゃない。このままでもいいけど可愛くなる分には何も思わない。可愛いなって思うから。」
「なんかね…『可愛い』を求めすぎると、どんどん『男』から遠のいてく気がする。」
「聞くけど、『男』でいたい?」
「基準が分からない。」
「お前ずっとそれで悩んでね?振り幅とか立ち位置。」
「そうなんだよね。」
「じゃあもう俺は『女か』って言わない。違う言葉にする。」
「なんて言うの?」
「可愛いってそのまま言う。俺…本当に翔が可愛くて可愛いくて仕方ない。どの角度から見ても。この手の置き方も、目線も全部。…ずっと見てたい。…おかしいか?」
「おかしくない。嬉しい。」
翔はそう微笑んだ。
カフェを出たあと、駐車場で車の助手席に翔を乗せると僕は身を乗り出してキスした。
「ずっとしたくてウズウズしてた。」
目を見てそのままの距離で言うと、次は翔からキスしてきた。
「稜太…ちゃんとしたい…僕、稜太が出来ること知ってる…。今まで知らないフリしてた。」
「……?どういう意味?」
「稜太のうちで見つけたの。その……」
「なに。」
「……いわない。でも知ってる。」
「なにを。」
「稜太の秘密。ほんとは僕とできるよね?」
「……」
「どうなの?」
「お前この距離でそれ聞く?」
翔は僕の胸ぐらをつかまえて離さない。
そしけこういう時の力は思った以上にある。
「…言わない。言いたくない。…なんならたしかめてみろよ。」
「言っちゃったね?覚悟してよ。」
─────────自宅。
「かけ…ちょっと待って…」
「なに?」
「怖い……」
「大丈夫。僕を信じて。その代わり秘密の扉開けていいかな?」
翔はそう言うと、ベットの下の引き出しを開けた。
「あーあーまた楽しそうなものいっぱい入ってるね。これは誰に使うの?女の子?…それとも…」
僕は顔を真っ赤にしていた。
翔は僕が出かける前に使ってたものをまるで知っていたかのように出してきて僕の首を捕まえて見せつけた。
「ん?なに?」
「…なんでもない。」
翔は満面の笑みで僕を見る。可愛い顔したサイコパスだ。
─────────────────────。
僕の腕の中で眠るこの可愛いやつについさっきまで狂わされてたかと思うとちょっと恥ずかしかったりする。
でもそんなギャップがまたたまらなく愛しくて寝てるのをいい事に僕は抱き寄せて額にキスする。
「…かけ、そのまま寝とけ。起きるなよ。」
─────────────────────。
「……なにしてんの?」
翔がうっすら目を開けた。
僕は聞こえないふりをして重ねた物を導こうとしていた。
「稜太…ダメだって…」
───────────────。
「……可愛い。」
僕はこの日また翔の今まで知らなかった顔を見た。
「お前、今までずっと一人だった?」
「うん…」
「あんな顔して?」
「うん…」
「勿体ね、、見てやればよかった。」
「見たかったの?」
「見ながら楽しみたかった。」
「僕が耐えられなくなる」
「……いいよ」
───────────────。
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