第67話 山葵山の奮闘日記_開戦

「ただいま~、幸子くんはいるか?幸子くん?」

「ここにいますよ。もう、さっきまで鈴兵くんが山葵山さん帰ってくるまで待ってたんですよ?お礼がしたいって。」

「なんだって?やっぱり怒ってたか?、ん?お礼がしたいって?いや、これはヤンキー映画や任侠映画でよく見る比喩表現のお礼のことか?やっぱり怒ってるのか!」


「何言ってるんですか?違いますよ。鈴兵くんはほんとに良い子なんですから。」

「なに?いや、わたしは騙されないぞ!そんなことより、これからこの事務所は入るのにお金を取ることにするからな。」

「急にどうしたんですか?そんなことしたらただでさえ来ないお客さんが1人も来なくなっちゃいますよ?」


「いや、ちゃんとしたお客さんからはお金を取らないよ。依頼があれば別だ。」

「そしたら希美ちゃんとか琴音ちゃんとか、遊びに来てくれる人からもお金取るんですか?可哀想じゃないですか?」

「そこなんだよ、幸子くん。希美くんの家は大富豪だ。少しくらいお金もらっても良いじゃないか。」


「中学生の女の子からお金取るなんて。どんな依頼でも依頼人のために頑張るとこが良いとこだったのに。山葵山さん、良いとこなくなっちゃうよ?」

「わたしの良いとこはその1つだけなのか?」

「はい!」


「なんてことだ。じゃあ逆に聞くが、悪いところはあるのか、いや大丈夫だ、なんでもない。」

「ケチなところ、うるさいところ、すぐ嘘つくところ、すぐ人を騙すところ、虫が苦手なところ、あと」

「ああい、大丈夫だと言っただろうが!良いところと悪いところのバランスが崩壊しているじゃないか!」

「良いところも悪いところも含めて山葵山さんですよ。気にしないでください。」


「いやほとんど悪いところじゃないか。まぁいい、とりあえず事務所に入るには依頼が必要だからね。希美君にも伝えてくれよ。」

「はーい。」


ー翌日ー


「幸子さんって歯がめっちゃ白いですよね!ホワイトニングとかしてるんですか?」

「うん、してるよー。」

「そうなんだ、私もしようかな。」

「希美ちゃんはまだ早いんじゃない?私も20歳になってからだし。」

「えぇー、じゃあホワイトニングの歯磨き粉とかあるからそれ使おうかな。」

「市販のはあんまり効果ないみたいだよ。歯医者さんとかから買った方が良いかも。」

「そうなんだ。じゃああかねさんに今度頼んでみようかな。」


「ええい!なんで今日も希美くんがいるんだ!依頼がないとお金とるって言っただろう!幸子くん、お金はきちんと30秒で20円取ってるんだろうね?」

「もらってないですよー。」

「なんでもらってないんだ!もう1時間はいるよね?だったら2400円くれっ!さぁくれっ!」


「電話料金みたいにお金とらないでくださいよ。今日はきちんと依頼に来たんですから。」

「なんだって?何の依頼だ?幸子くん。」

「私とおしゃべりするって依頼を受けました~。」

「おしゃべり?なんだそれは、そんなの依頼じゃない!いつもと変わらないじゃないか。それに依頼料はいくらだ?」

「報酬はこれです。」


「これですって、お菓子と紅茶じゃないか!私は認めんぞ!」

「もう、良いじゃないですか山葵山さん。仲良くしてくださいよ。」

「私は生活がかかってるんだ!この事務所の家賃と光熱費や水道代は私が払ってるんだぞ!よし、幸子くんとおしゃべりは60秒毎に40円徴収する。そう決めた!」


「さっきと変わってないじゃないですか。もう、ごめんね希美ちゃん。」

「いえ、気にしないでください。山葵山さんの言い分の一理あるんで、今日の所はお暇します。今日の所は、ね。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る