第65話 食い逃げ犯
そしてあっという間にそれぞれの定食を食べ終わった頃、山葵山はそろそろ出るかと言って、伝票を取りあげる。
「鈴兵くん、トイレは大丈夫か?」
鈴兵はそう言われるとトイレに行きたくなってきた。
「じゃあすみません、行ってきます。あ、代金は?」
「それならいいんだ。行ってきなさい。」
鈴兵は初めて山葵山から優しい言葉をかけられて少し気になったが、とりあえずトイレに行くことにした。
「ふぅ。」
トイレから戻ってきた鈴兵は、2人がいないことを確認して外に出ようとするが、
「鈴兵くん!お金お金!」
「え?山葵山さんが払ってないの?」
鈴兵は机に置かれた伝票を手に取る。
すると伝票の裏に何か書かれているのを見つける。
ー鈴兵くんへ。
依頼料は受け取った。
支払いよろしく。🐻ー
鈴兵は危うく伝票を握りつぶしてしまうところだった。
日替わり定食500円と特別定食1500円の計2000円を支払って外に出る。
鈴兵はその足で山葵山探偵事務所へと向かう。
ピンポーン。
「はーい、どうしましたー?」
中からは辛子名幸子が出てきた。
鈴兵は山葵山に文句を言いに来た所に幸子が出てきて戸惑っていた。
「すみません、こちら山葵山探偵事務所で合ってますか?」
「そうですよー、でもごめんなさい。いま山葵山さんザリガニ捕まえに川に行っちゃってまだ戻ってないの。もう夕方なのに。」
「そうなんですね、まだ戻ってないんですか。」
鈴兵は昼にザリガニを一緒に捕まえて、指名手配犯を探していたこと、なまず屋で食い逃げ犯になったことを幸子に説明した。
「そっかー、山葵山さん、またそんなことしてるんだ。ごめんね、迷惑かけたみたいで。」
「いえ、僕の方こそせっかく他の探偵や警察が相手にしてくれなかった中で山葵山さんだけ僕の話を聞いてくれたのに、最後は喧嘩みたいになっちゃったのが申し訳なくて。謝りに来たんです。」
鈴兵が言い終わるのと同時に、幸子は鈴兵を強く抱き締めていた。
「えっ?えっ!?」
鈴兵は急に抱き締められて困惑していた。
「鈴兵くん、なんて優しい子なの。山葵山さんを許してくれる人なんて初めてよ。」
幸子は鈴兵を優しく離す。
すると、奥から幸子を呼ぶ声が聞こえる。
奥から出てきたのは希美だった。
「希美さん、お客さんなら入ってもらったら?あら?あなたは風間君。指名手配犯は見つかったの?」
「いや、指名手配犯の犯人はお寺の住職だった。それより砂糖元はどうしてここに?」
「私は幸子さんと話しに来たの。友達なんだから。」
鈴兵は事の経緯を希美に話すと、希美は呆れた仕草で首を降る。
「だから言ったでしょ?そんな指名手配犯いないって。」
「そうだな。でもこの事件からえるものも多かった。山葵山さんにも脂元さんにも、それに、幸子さんにも出会えたから。」
鈴兵は控えめに幸子の方を見る。
幸子は訳も分からずに笑顔で返す。
鈴兵はすぐさま目をそらして赤くなる。
「風間君、幸子さんは渡さないわよ?」
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