第63話 指名手配犯の正体

「そんなことより、指名手配犯の聞き込みをしなければ。」

「あ、それ大丈夫です。さっき知ってる人に聞けました。」

「なんだって、いつの間に!で、指名手配犯はどこにいるんだい?」


「なんか牛腹寺に行けば分かるって言ってたので、とりあえず牛腹寺に行きましょう。」

「よし!じゃあ脂元くん、行くぞ!」


一行は歩いて牛腹寺を目指す。

「でも、お寺に指名手配犯がいるってことはどう言うことなんだ?お寺が匿っているのか?極悪人を。なんと由々しき事態だ。」

「いや、お寺で罪を償ってるんじゃないですか?もう捕まっていて、更生するためにお寺で修行してるんですよ、きっと。」


「鈴兵くんそうは言ってもね、指名手配犯が街中を歩いていることが問題なんだよ。これじゃおちおちパチンコも出来やしない。」

「パチンコって、でも確かに住民は不安ですよね。でもさっきの人は全然そんな感じじゃなかったんですよね。緊迫感もなくて。」


「とりあえず行ってみれば分かるんですよね?さっさと終わらせて、北極熊のラーメンでも食べに行きましょう。」

「脂元くん、君は食べることばかりじゃないか。まぁ確かに行くしかないようだね。」


そうこうしているうちに、牛腹寺に到着した。

辺りを見回すと、箒で掃き掃除をしている人を見つけた山葵山は、白紙のメモを取り出して尋ねる。


「失礼、あなたはここの住職さんかなにかですか?」

山葵山に声をかけられた男は、箒の手を止めてじっと山葵山を見つめる。


「いかにも、私がこの牛腹寺で一番えらい者ですが、何か?」

山葵山と男のやり取りを見ていた鈴兵が、突然あっと声をあげて2人に歩み寄る。

「すみませんが、ちょっと後ろを向いてもらって良いですか?」

男はそう言われると、首だけを後ろに向けて振り返るようにする。

「あ、すみません、からだごと後ろにお願いします。」

後ろになり背中を向けられた山葵山と鈴兵は、同時に声を出す。


「指名手配犯、、」

なんと男の来ていたTシャツの後ろには、きっちり指名手配犯と文字が書かれていたのだ。

すると山葵山1歩後退り構えた。

「やはりお前が指名手配犯だったのか!」


「いかにも、今日は指名手配犯をやらせてもらってます。昨日は脱獄犯で、その前はなんだったかな?」

「なに?今日はってどう言うことだ?」

すると住職はスマートフォンを取り出して、山葵山たちに向ける。


「実は最近SNSを始めて、けっこう好評なんですよ。毎日違う文字が書かれたTシャツを着て写真を挙げてるだ。」

画面に映し出されていたのは、牛腹寺Officialと書かれたアカウントで、フォロワーは20万人を越えている。

牛坂市の人口を越えているフォロワー数に、鈴兵は絶句している。

山葵山は何を話しているのか分からずにこれまた絶句している。


「そのえすえぬえすというものはよく分からんが、結局指名手配犯はいなかったってことか?」

「私が指名手配犯ですな。明日は陶芸家にでもなろうかと思ってます。」


「やっぱりおかしいと思ったんだ!指名手配犯が自ら誇示して街中を歩くなんて。全く鈴兵君のせいで無駄な交通費を払ってしまったじゃないか!依頼料はしっかりもらうからな!」

「山葵山さんだって、これは我々への宣戦布告だー、挑発してるんだー、って騒いでたじゃないですか!そもそも依頼料なんて聞いてないですよ。懸賞金から払うってことになってたから、僕が払う必要ないんじゃないですか?」


「まぁまぁ、2人とも。とりあえずラーメン食べに行きませんか?」

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