第62話 足の数

「すみません、今日の朝に牛腹寺方面へ向かって指名手配犯ってTシャツ着た人が歩いて行ってたんですけど、何か情報知りませんか?」


鈴兵は牛坂駅から歩いてきた中年女性に話を聞いていた。

「指名手配犯のTシャツ?あぁその人ならよく知ってるわ。有名人だもん。」

「え?有名人?どういうことですか?」


「ここら辺に住んでる人なら誰でも知ってるわ。そう、今日は指名手配犯なのね。」

ふふふっ、と笑いながら女性は牛腹寺に行ってみれば分かると教えてくれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「だから、足が4本あった方が速いんだって!」

「いや、足は2本で充分です。それより手が4本あった方が早く走れます。フォークも4本持てるし。」

「あの、なんの話をしてるんですか?」


「あぁ、鈴兵君。いやね、僕は足が4本あった方が速く走れると言ったら脂元くんが手が4本あった方が速く走れるって言うんだ。」

「そもそも、なんで速く走れるかって話になってるんですか?」

「それはさっき脂元くんが蜘蛛の足の数を分かってなかったみたいだから教えてあげたんだ。そしたら足が一番多い生き物はなんだって話になって、それは蛸だろうってなったんだ。じゃあ足が多ければ足も速いのかって脂元くんが言うから、一番速いのはチーターだろう?だから4本足が一番速く走れるって言ったら、脂元くんが違うって言うから、それについて議論していたんだよ。」


「ヘーソウナンデスカ。」

「あ、君いまどうでも良いと思ったね!じゃあ君はどう思うんだ?」

「その前に、そもそも足が一番多いのは蛸じゃないです。しかも蛸も蜘蛛と同じ8本の足です。烏賊の方が多いです。」

「なんだって?じゃあ足が一番多いのは烏賊だって言うのか?」

「いや、足の数で言ったらヤスデが一番じゃないですか?1000本足って言うくらいですから。」

「鈴兵君、ムカデもヤスデも足なんてないじゃないか。何を言ってるんだ?」


「確かに動物みたいに大きな足はしてないですけど、細かい足がいっぱいあるんですよ。ほらっ。」

鈴兵はそう言うと、持っていたスマートフォンでヤスデの足が動いている動画を出す。

「うわっ、なんだこれ気持ち悪い!」

「どうです?ちゃんと足があるでしょう?少し前にオーストラリアで発見されたやすでが1306本あったみたいですね。」


「僕はこんなの足とは認めない!」

「まぁ山葵山さんの見解はそれで良いとして、で、足の数と速さについての話でしたっけ?」

「そうだ。4本足が一番速く走れるのはチーターで証明済みだ。」

「なるほど。脂元さんはどうして足じゃなくて手が4本あった方が速く走れると思うんですか?」


「そもそも一番速いのがチーターっていうのが間違いです。だって一番速いのはボルトでしょ?世界記録だから。」

「いや、脂元くん。あれは人間の中で一番ってだけだよ。」

「え?でもオリンピックでも一番とる人はみんな人間ですよね?」

「うん、オリンピックも人間だけの大会だからね。」

「なんてことだ。」


「でも、それと手が4本あった方が速いってのはどういうことですか?」

「それはボルトって手をめちゃくちゃ振って走ってるでしょ?だから4本の手で振ればもっと早く走れると思うんだ。」

「なるほど、じゃあ足は2本で充分だってことですね。」


「だからそれは人間だけの話であって、動物で言ったらチーターが一番速いから4本足が一番速いんだって。」

「でも厳密に言うとチーターも足は2本なんじゃないですか?」


「なんだって?」

「チーターは4足歩行ですけど、手が2本と足が2本の4足歩行だから、足は2本じゃないですか?」

「ぐぬぅ。」

「ですよね?だから足は2本が速いんじゃないですか?」


「いや。」

山葵山が鈴兵にあっけなく論破されている姿を見かねたのか、『大きな』執事が異議を唱える。


「チーターの手は前足だから、足は4本で合ってると思うよ。」

「脂元くん。なるほど、どうだ!鈴兵君!」

鈴兵は『大きな』執事に言われて、慌ててネットで調べる。

「確かに、4足歩行の哺乳類の手の部分は前足と呼ぶのが正解みたいですね。」

「はっはっは、それ見たことか!それにしても脂元くん、良く知っていたね。」


『大きな』執事は山葵山にそう言われると、静かに空を見上げた。

「それは、昔よく言われましたからね。お前は器用に前足つかって食べてるなって。。」

「.......................。」

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