第61話 聞き込み調査
山葵山のチャージが済むと、三人は牛坂駅行きのホームへと移動する。
「鈴兵君、件の指名手配犯は牛坂駅のどの辺で見かけたんだい?」
「僕が見たのは、南口のロータリーで牛腹寺方面へ歩いていく後ろ姿でした。」
「その指名手配犯は牛腹寺に行ったのかい?」
「いや、僕が見たのは牛腹寺方面へ向かう姿だけで、実際に寺に行ったかどうかは分からないんです。」
「なんだって?なぜ追いかけなかったんだ?」
「本当は追いかけたかったんですけど、中腹台公園に用事があって。ちょうどバスが来たのでそれに乗ってしまったんです。」
「なるほど。では南口のタクシー乗り場で聞き込みをして、実際に牛腹寺へ行ってみるか。情報が少ないから長い戦いになるぞ。」
「じゃあまず駅に着いたら腹ごしらえですね。」
「君は食べてばかりじゃないか!」
「それにしても、中腹台公園にはなんの用事で行ったんだい?」
「クラスのみんなと体育館でバレーボールしてました。球技大会が近いので。」
「球技大会?それは女性もいたのかい?」
「うん。夏海に菫と亜樹。それに俺と健司と花門の6人でコート借りてやってたよ。でも女子がいるからなんなんだ?」
「いや、当日近くにいたのなら何か情報があるかもしれないから、彼女たちにも聞いた方が良いんじゃないかと思ってね。」
「洋一さん。相手は中学生ですよ?」
「なんだ!私は指名手配犯を捕まえるために少しでも情報が欲しいだけだ!卑しい思いは微塵も無い!」
「中腹台公園は駅からは結構離れてるし、みんなは先に着いてたみたいだから何も知らないと思うよ。」
「そうか、まぁそれならしかたがないか。」
山葵山は少し背中を丸めて、ホームについた電車を見やる。
「さぁ、気を取り直して牛坂駅へ向かうとするか。」
「気を取り直すのは洋一さんだけですけどね。」
三人を乗せた電車は、牛坂駅へと到着した。
「さぁ、今から地道に聞き込みを始めるぞ。探偵の仕事は忍耐だからな。最近は話しすら聞いてもらえない人も多い。そんなのは気にせずに根気よく聞き続けるんだぞ。」
そう言って山葵山は、まず南口のロータリーで停まっているタクシーに聞き込みを始める。
「すみませんが、少し聞いても良いですか?今日の朝の9時頃に牛坂駅から牛腹寺方面へ背中に指名手配犯と書かれたTシャツを着た人物を見ませんでしたか?」
すると、停まっていたタクシーの運転手は、ゆっくりと窓を開けた。
「ん?なんだって?どこ行きたいんだ?」
「あ、いや。乗りたいんじゃなくて、少し話を聞きたくて。」
「乗らないんだったら、後にしてくれ。ほらどいて。」
山葵山たちの後ろにはタクシーの利用客が並んでいた。
タクシーの運転手は、さっさと客を乗せて発進してしまった。
この時間はタクシーの利用客が多く、何台か停まっていたタクシーはあっという間にいなくなってしまった。
「どうだ?聞き込みはこんなものだ。でも気にしちゃいけない、次に行こう。」
「いや、今のは洋一さんのせいでしょう?窓開けてないのに聞き込みしても聞こえないでしょう?ほんとに聞き込みなんかしたことあるんですか?」
「なんだその言い草は!聞き込みなんて蜘蛛の足ほどの数をやってきたよ。」
「なんだ、10回ちょっとくらいですか。そんなんで威張んないでくださいよ。」
「いや、蜘蛛の足は8本だ、言わせないでくれ。」
山葵山と『大きな』執事が言い争っているうちに、鈴兵は近くの主婦に聞き込みをしていた。
「すみません、今日の朝に牛腹寺方面へ向かって指名手配犯ってTシャツ着た人が歩いて行ってたんですけど、何か情報知りませんか?」
「あぁ、あの人ね。あの人ならね......」
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