第59話 探偵からの依頼
「指名手配犯だって!?それは本当なのかい?」
山葵山は今までにない程身を乗り出して鈴兵に問いただす。
「はい、顔は見れなかったんですけど、背中に指名手配犯と書かれたTシャツを着て街中を歩いていたんです。」
「なんと、これは我々への宣戦布告だな。わざわざ自分が指名手配犯だと流布して挑発してるのか。一刻も早く捕まえなければ。脂元くん、それに君。すぐに現場へ向かいたいから、ちょっと手伝ってくれないかい?」
山葵山はそう言うと、2人に小さい網を渡してきた。
「手伝うって、何してるんですか?」
『大きな』執事はめんどくさそうに網を受けとる。
「息子がザリガニが見たいって駄々をこねるから捕まえて欲しいって鈴川さんとこの奥さんから依頼があってね。だけどドジョウばっかでザリガニが全然見当たらないんだよ。」
身の丈程ある網を構えながら川面に目を凝らしている山葵山に、鈴兵が意見する。
「ザリガニは川にはいませんよ。もっと浅くて流れが穏やかな池とか用
水路とかにならいると思いますよ。」
「なんだって!?そういうことは早く言ってくれ。半日無駄にしてしまったじゃないか。用水路なら近くにあったな。さぁ行くぞ。」
山葵山は網を再度背中に仕舞い、用水路へと『大きな』執事と鈴兵を引き連れる。
「脂元くん!そっちに行ったぞ!任せた、捕まえてくれ!」
「えぇ?無理ですよ、挟まれたらどうしてくれるんですか?うわぁ、気持ち悪い!」
「網を渡したろう!?それで捕まえるんだよ!素手で捕まえるバカがいるか!あぁ、今度は鈴兵君のとこに行ったぞ!」
「あー!山葵山さん、じたばたしないで!その網は大きすぎて引っ掛かるから置いてよ。」
「君、私はだいぶ年上だぞ?おい、脂元くん!なに勝手に休んでるんだ!しかもなんか食べてるじゃないか!なんだそれは?おにぎりか?具はなんだ?えっ?こんぶだって?美味しそうじゃないか。塩見シェフが作ってくれたって?僕の分はないのかい?なんだいっぱいあるじゃないか。1つ頂こうじゃないか。」
「山葵山さん、そっち行った!チャンスですよ!」
「ええい、網を貸せ!捕まえたら私にも食べさせるんだぞ!」
山葵山はそう言うと左手で『大きな』執事の持っている網を奪い取り、右手でザリガニを捕らえる。
「痛ったい、こいつ挟んできやがった!」
「なんで網使わないんだよ!待って、振り回さないで!」
あまりの痛さに、振りほどこうと挟まれた右手を振り回すと、ザリガニが宙を舞った。
山葵山の頭上のザリガニを鈴兵の網が山葵山の頭ごと捕らえる。
「やった!捕まえたぞ!」
「おい、私も一緒に捕まえてどうするんだ!痛っ、おいこいつ両手で挟んできてるぞ!いたっ!」
どうにか山葵山の頭からザリガニを引き剥がした鈴兵は、ケースにザリガニを入れ込んだ。
「ふぅ、良くやってくれた。さぁ、塩見シェフが作ってくれたおにぎりでも食べて祝杯をあげようじゃないか。麦茶しかないけど。」
山葵山は『大きな』執事の横に腰を下ろした。
「さぁ脂元くん。おにぎりをくれないか?」
「もう全部食べちゃいました。」
「なんだと!君は何もしてないじゃないか!おにぎりだけ食べて、この野郎!」
「洋一さん、落ち着いてください。僕がおにぎりを食べてたおかげでザリガニが手に入った訳じゃないですか?」
「ふざけるな!ザリガニは私が捕まえたんだ!」
「ちょっと、最終的に捕まえたのは僕ですよ!」
「ま、まぁ私と鈴兵君で捕まえたんだ。とにかく君は何もしてないじゃないか!」
「いや、だから僕がおにぎりを食べてお腹がいっぱいだから、ザリガニが無事だった訳じゃないですか?」
「え?」
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