第57話 指名手配犯

「お嬢さま~、お嬢さま~。居るのは分かってる。お嬢さま~。」

『大きな』執事は犯人に告ぐように希美を呼んでいる。

希美が扉を開けると、そこにはたこ焼きを食べている『大きな』執事が立っていた。


「あなた、そのたこ焼きどうしたの?また大吾さんに内緒で食べてるんでしょ?」

そう言われると、『大きな』執事はしたり顔で指を振る。

「これはお嬢さまのお客様からもらったものです。もらいものなのでノーカウントです。」

『大きな』執事は意味不明な論理で対抗してくる。


しかしそんなものに構っている暇はない。

先程、自分のお客様って言っていたのを確認する。

「お客様って、誰かしら?」

『大きな』執事に問うと、『大きな』執事は満面の笑みで答える。


「たこ焼きをくれた人です。」

「それは分かってるの。名前とか言ってなかった?」

「はい、所属とフルネームを言ってました。」

「そう、教えてくれてありがとう。で、所属と名前はなんて言うの?」

「覚えてません。たこ焼き渡されたんで。」

「門の前にいるのよね?行ってくるから、ちゃんと大吾さんにたこ焼きもらったこと言っておいてね?」


希美は一つ一つ確認したとを後悔し、屋敷の入口へと向かう。

するとそこには、見慣れない顔がいた。

いや、見たことはある。確か同じ学年の1組の人だ。

でも話したこともない。何の用事だろう。

1組は少し嫌な思い出もあるし、苦手だ。


でも1組だからと言って、偏見の目でみるのはダメだ。

希美は自分に言い聞かせ、門の前で待っている男に声をかける。


「ごめんなさい、お待たせしちゃって。あなたは確か、」

「貂彩学園中等部1年1組の、風間鈴兵です。こちらこそ、急に来て申し訳ない。砂糖元さんにお願いがあって来たんだ。」

「お願い?何かしら。」

「実は、前に鯨谷たちと探偵の手伝いをしてたって聞いて。その探偵を俺に紹介してくれいないか?」


「探偵?」

探偵の知り合いなんていたかしら。

希美は記憶を遡り、鯨谷と探偵を結びつける記憶を探る。

あぁ、あいつか。でも紹介はしたくないなぁ。

しかし、良く知っている人ならまだしも、あまり接点がない人を邪険に扱うのは気が引ける。

しかたなく希美は、自称探偵の名刺を出す。

前回猫探しを手伝った時に、「ぜひ紹介して。」と言われて50枚渡されたので余っている。


「それなら、この人かしら?」

名刺を手渡すと、鈴兵はそれを笑顔で受け取る。

「ありがとう。ネットで探しても全然情報が出てこなくて、困ってたんだ。」

あまりに喜ばれると、逆に不安と申し訳なさがこみあげてくる。

「でも、探偵に頼むなら、もう少しましな探偵がいるんじゃない?わざわざ底辺に頼まなくても。どんな依頼なのか聞いても良いかしら?」


大事そうに名刺を財布に入れながら、鈴兵は神妙な面持ちで静かに答えた。

「実は、警察に連絡しても取りあってもらえず、もちろん他の探偵の人にも頼んでみたんだけど、俺が中学生なこともあってか、聞く耳持ってくれなくて。」

「警察に?何か事件でもあったの?」


「事件じゃないんだけど。実は今朝、牛坂駅で指名手配犯を見たんだ。」

「指名手配犯?だったら警察が対応しないなんておかしくないかしら?」

「あぁ、最近の警察も他のことでいっぱいいっぱいになってるのか。」


希美は不信に思って、少し深く聞いてみる。

「指名手配されてるってことは、名前とか顔とかが分かってるってことでしょ?それは警察に伝えたの?」

すると、鈴兵はまた神妙な面持ちで答える。


「いや、それが後ろ姿しか見てないから、顔も名前も分からないんだ。」

「じゃあなんで指名手配犯って分からないじゃない。」

「いや、それは断定できる。だって来ていたTシャツの後ろに書いてあったんだ。」

「書いてあったって何が?」

「だから、指名手配犯って。」

「え?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る