第54話 新しいバンド

「マリンバ!?なんだっけそれ?」

景気よく驚嘆した結衣だが、ただ言葉に反応しただけであって、希美とカンナの方に答えを求める。

希美とカンナは互いを見合うが、カンナに持ち合わせがないのを察した希美がそのまま結衣を見やる。


「マリンバは木琴の一種で、元はアフリカが発祥の打楽器ね。琴音はマリンバとカスタネットしかできないわ。」

「え?木琴?」

想像していた楽器と違ったのか、結衣はあからさまに落胆している。

確かに、バンドで打楽器はドラム以外で一般的ではないが、他にも何か事情がありそうだ。


「鰹木さんは、何の楽器担当なの?ベースとか?」

結衣は得も言われぬ顔をしながら言い淀んでいる。

希美はそんなことは意に介さず、じっと結衣を見つめる。

沈黙に負けたのか、結衣は観念して答える。

「てっきん。」

「え?」


「鉄琴!私は鉄琴しか叩けないの!」

なんてことだ。打楽器が2人も。それにもう1人はピアノ。

これはバンドと呼べるのか?

いや、一般的にはバンドに打楽器はあまり見ないが、それはあくまで一般的にである。それも日本の一般的。

それにまだ左右田カンナの担当楽器に一縷の希望がある。

そう思った希美はカンナの方に向き直って口を開こうとした瞬間、


「ドラム。」

「え?」

希美はカンナのカウンター返答を喰らって無意識返答をしてしまった。

戸惑っている希美を見て、カンナは続ける。


「あたしはドラム担当だ。ギターじゃなくて悪かったな。」

そうだ。まだドラムの線が残っていた。

打楽器が立て続けに登場して、ドラムの存在が頭から消えていた。

よく見れば、見るからに叩きそうな顔をしている。


しかしなんてことだ。

マリンバに鉄琴、ドラムにピアノ。

打楽器3にピアノ1。ん?ピアノってなに楽器だ?

希美は打楽器の衝撃でピアノがなに楽器か零れてしまった。

持っていたスマートフォンでピアノを調べると、なんと。


「打楽器3じゃない。打楽器4だ。」

希美は言いながら皆を見るが、誰も目を合わせてくれない。

琴音は興味がなくなったのか、窓の外を眺めている。

しかし、もともと3人組のバンドでギターにドラム、鉄琴ならなくはない。

そう思った希美は、今回欠員が出たメンバーについて確認する。


「そう言えば今回欠員が出たってことだけど、その人は何の楽器を担当していたの?」

希美がそう尋ねると、結衣は先ほどよりもさらに言いにくそうな顔をしている。

しかし今回は早々に観念して、言いにくそうではあるが口を開く。

「元のメンバーは1組の鯛網翼って娘なんだけど。担当してた楽器が、ね。トルンっていう楽器なの。」


「トルン?」

初めて聞く名前だが、今までの流れでどんな楽器か想像だできてしまう。予想が外れて欲しいが。

希美は恐る恐る尋ねる。

「それってもしかして、打楽器?」

結衣は無言で小さく頷く。


「ベトナムの民族楽器で、竹でできた正真正銘の打楽器よ。」

希美は思考が停止してしまった。

残る一人は弦楽器だとばかり考えていたためだ。

すると、窓を眺めていて聞いていない様子だった琴音がぴょんぴょんとやって来て嬉しそうに口を開く。


「なんだ、みんな打楽器なんだ!面白そう!」

「ギターが良かったの!!」

琴音の嬉々とした声とは逆に、結衣は押し留めていた感情が堰を切ったように溢れ出すような声で言葉を跳ばす。

希美も琴音も唖然として、結衣を見る事しかできないでいた。

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