第53話 バンド?
図書館で桜児と別れた希美と琴音は、軽音部の部室に向かっていた。
「希美ちゃん、これから誰と練習するの?」
「それがまだ分からないの。鰹木さんには昨日誘われたから。」
この貂彩学園は、運動部と文化部合わせて100以上の部活がある。
部活の申請は1人でも部員がいれば申請できる。
承認されるかはいくつかの条件があるが、承認が下りないことは稀である。
顧問を外部に発注するなど活動に費用が掛かる場合は、部の活動で賄う必要があるため、申請の段階でその見通しをたてる必要がある。
最近は動画配信で広告料をもらえたり、SNSでも費用は稼ぐことができる。
活動自体に費用がかからないものについては別途審査があるが、基本的に生徒のためになる活動であれば承認される。
なので、100以上の部活動があるわけであるが、生徒の数は限られているため1人1部活では人が足りない。
そのため貂彩学園は、部活動の兼部が容認されている。
バレー部に所属しながらバスケ部に所属したり、軽音部に所属しながら吹奏楽部に所属したり、柔道部に所属しながら人形劇部に所属したり。
月に1度でも参加することを条件に、兼部の数は上限が定められていない。
もちろん学業に支障が出ない範囲ではあるが。
これも基本的に授業を真面目に受けていれば問題はない。
3人を除いて。
希美も、例にもれず複数の部活動に参加している。
軽音部もその1つだが、1学期はあまり活動には参加していなかった。
文化祭が近づくと、軽音部内ではバンドを組む動きが出てくる。
文化祭では貂彩学園フェスが開催され、多くのバンドがステージで演奏する。
希美は文化祭には参加しようとは思ってなかった。
しかし、希美と琴音の所属する2組の委員長である鰹木結衣に、メンバーに欠員が出たからと誘われたのだ。
特に断る理由も無かったので、これを承諾したのだが、それを聞きつけた琴音も参加することになった。
なので、希美もどんなメンバーでどんな曲を演奏するのか見当もついていない。
そうこうしている内に、軽音部の部室に到着した。
部室に入ると、文化祭が近いからか軽音部の部員でにぎわっていた。
結衣を探していると、後ろから尖った声が降ってきた。
「結衣ならまだ来てないぞ。」
振り返ると、そこには金髪で目つきの悪い少女が立っていた。
「そう、あなたは確か、」
希美はクラスメイトの名前は全て把握している。
他のクラスもだいたいは知っているが、あまり関わっていない人もいる。
彼女はその一人で、たぶん1組であろう雰囲気を醸し出してはいるが、名前が出てこない。
すると、沈黙に耐えかねたのか
「左右田。左右田カンナ。」
「左右田さん、ごめんなさい。もう覚えたわ。」
最低限の自己紹介をしたカンナは、荷物をおろし近くの席に座る。
するとタイミングが良いのか悪いのか、慌てた様子の鰹木結衣が入り口から音を立てて入ってきた。
「あぁ、砂糖元さん、それに鰈埼さん。ごめんなさい、遅れちゃって。」
結衣はそう言うと、カンナにも謝意を述べて続ける。
「早速練習したいんだけど、砂糖元さんは何か楽器は何か?」
希美は、既に分かってて誘ってきたのかと思っていたので、少し驚きつつも答える。
「私はピアノしかちゃんと弾けないわ。ギターとかドラムとかはちょっと。」
結衣は隠しつつも、少し俯きながら、そう、と目線を下げる。
「じゃあ鰈埼さんは?どう?」
そう聞かれた琴音は、自信満々に答える。
「私はね~、マリンバ!」
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