第51話 大食いバトル決着

もう、と言いながら、のどかは食べ始める。

お父さんは続いて『大きな』執事のテーブルにロースカツ定食を運ぶ。


すると『大きな』執事は、突然手を上げた。

「お父さん。大きめの取り皿をもらっても良いですか?」

「誰がお父さんでい!ほらよ。」

お父さんはそう言いながらも優しく取り皿を渡す。


『大きな』執事は取り皿を受けとると、ご飯と味噌汁を取り皿に流し込んだ。

「ビュジュリュリュリュリュ!」

『大きな』執事はねこまんまのようにご飯を掻き込む。

一気にご飯と味噌汁を食べ終えると、カツとキャベツを吸い込んでいく。


しかし、そのペースよりものどかのペースの方が早い。

既に味噌汁以外のロースカツとキャベツ、ご飯は食べ終わっている。

しかし、残りは味噌汁だけなのだが、なかなか食べようとしない。

ずっと、味噌汁のお椀をふうふうしている。


そうか!

猫舌なんだ。

猫舌対ねこまんまだ。

この対決で丼で広げられた差を埋めている。


しかし猫舌といえど、味噌汁も冷めてきて、のどかも味噌汁を飲み干す。

ピピンポーン!

同時に卓上のベルが押された。

「おう、接戦だな!」

お父さんは最後の麺料理を炒めている。


はいよ!、と最後の麺料理である焼きそばを二人の前に配膳する。

『大きな』執事は、お父さんが置く前に皿を奪い取りフォークで焼きそばを掻き込む。

「こら脂元くん!お父さんが置く前に取っちゃダメじゃないか。」

山葵山は『大きな』執事のあまりの必死さに、つい言葉が出てしまった。

「誰がお父さんでい!」


そんなやり取りは腹に介さず、『大きな』執事とのどかは互角の戦いを繰り広げている。

相変わらずのどかは静かに、『大きな』執事は爆音で食べているが。

ここで山葵山は『大きな』執事がげっぷとは別に、頻繁に咽ているのに気づく。

山葵山は2人が食べている焼きそばを見てみると、咽させているものを発見した。


焼きそばの上には、鰹節や青のりの他に、小さい揚げ玉が乗っていた。

『大きな』執事は大量の空気と共にこの揚げ玉を気管に放り込んでいるため、ダメージが大きいのだ。

「ゴフゴフッ!」

やばい、ただでさえげっぷのハンデがあるのに、これでは負けてしまう。


山葵山が心配したその時、

「ガフガフッ!」

一段と大きい咽びを披露した『大きな』執事は、焼きそばを口から噴き出した。

「脂元くん!大丈夫か!?」

あまりの苦しそうな姿に、山葵山は心配になった。

これではお金を払わなければならなくなる。

このご時世に皿洗いなんてまっぴらだごめんだ。


山葵山が自分の心配をしていたその時、あれほど静かだったのどかの方から、かすかに咽る音が聞こえた。

はっとのどかの方を見ると、のどかがお腹を抱えて震えているのが見えた。

どうしたんだ、お腹がいっぱいになって苦しいのか?

でもさっきまで順調に食べ進めていたのにいきなり?


山葵山は状況が理解できないでいた。

のどかは小刻みに震えている。

そしてついに耐えかねたのか、くっくっく、と笑いが零れてきた。

「どうしたんだ?」

山葵山は驚きを隠せないで声に出してしまった。


すると、のどかは『大きな』執事を指さして、「はな、はなから、」と悶えている。

はな?

のどかの指さす方を見ると、『大きな』執事が必死に焼きそばを食べている。

その鼻を見ると、山葵山は納得した。

『大きな』執事の鼻から、一輪の花のように焼きそばが出ていた。

しかも自前の鼻毛が草のように彩っている。


その必死な顔との対比で、初めて『大きな』執事に接するのどかは耐えきれなかったのだ。

のどかが悶えている間に、『大きな』執事はなんとか焼きそばを完食して、卓上のベルを鳴らす。

ピンポン!


やった、これでお金を払わずに済む。

山葵山は当初の目的を忘れ、出費がなくなったことに安堵した。

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