第49話 大食いバトル開戦
「脂元くん。男なら戦うしかないだろう?」
「え?嫌ですけど?普通に食べたいです。」
「そんなこと言わないで、この通り!」
山葵山は人目も気にせず土下座する。
「お金がないんだ。なんとしても大食いバトルでも勝って商品をゲットしてくれ!」
あまりの必死さに、『大きな』執事もめずらしく気圧されてしまい、腹が重いながらも承諾する。
「大将!このなまずやの丼定麺のBattleをお願いしたい!」
山葵山はまるで自分が挑戦するかのように大将にBattleを宣言する。
「はいよ!のどかー、注文入ったぞ。」
大将は山葵山からBattleを宣言されたのを受けると、のどかというおそらく大食い娘と見受けられる名前を呼ぶ。
「はーい。」
のどかと言われた少女が、暖簾の奥からのっそりとやってきた。
山葵山はのどかの姿に驚きを隠せなかった。
大食いというからには、その質量も『大きな』執事と同様に大きいと思っていたら、一般的な女性と比べても小柄な少女が出て来たからである。
これは楽勝だな、と山葵山は『大きな』執事の方を見ると、『大きな』執事は今まで見たことがない表情とお腹をしていた。
まるで武者震いのように腹部が小刻みに揺れている。
「脂元くん?」
『大きな』執事は含み笑いを浮かべながら、山葵山の方を見やる。
「洋一さん。こいつ、食べますよ。」
『大きな』執事は、こいつできるな、みたいにのどかが大食いであることを悟っていた。
『大きな』執事たちの座っている席に、ちょこんと腰掛けたのどかに、『大きな』執事は一段と腹部が揺れた。
「よろしくおねがいしまーす。」
のどかは『大きな』執事の腹部を気にする様子もなく、大食いバトルのための準備をしている。
「お箸とかスプーンはこちらにありますから、ご自由にお使いください。」
「大丈夫です。自分のがありますから。」
『大きな』執事はそう言うと、胸ポケットから箸を、内ポケットからフォークとスプーンを取り出す。
「脂元くん、ほんとにその箸で食べるのかい?」
山葵山は『大きな』執事が胸ポケットから取り出した箸を見て、驚きを隠せない。
フォークとスプーンはやや大きいのを除いて一般的なものと変わりはない。
しかし、『大きな』執事が取り出した箸の持ち手には子供の頃に見たことのある部品が取り付けられていた。
『大きな』執事が取り出した箸は、いわゆる矯正箸と言われる、箸の持ち方が身につけられる箸であった。
「実は箸を使い始めたのは最近なんです。お嬢様に箸を使うように言われて、」
山葵山はそれを聞いて不安になった。
今回は大食いバトル。相手より早くなまずやの丼定麺を完食しなければならない。
依頼の商品ももらえない。
何よりお金がない。
「脂元くん。今回は箸は使わないでくれないか?不利な要素は少しでも排除したい。」
山葵山は『大きな』執事から箸を取り上げた。
しばらくすると、大将が、へいおまち!と、なまずやの丼定麺の丼を持ってきた。
「よし、じゃあ大食いバトルの説明をするぜ。うちのメニューはその名の通り、丼と定食と麺料理を食べてもらう。テーブルに乗らないから、丼、定食、麺の順番で出してくから、食べ終わったら教えてくれ。」
説明を終えると、早速最初の丼であるカツ丼がフィールドに展開された。
すると大将が奥から陸上でよく見る大きなタイマーを持ってきた。
「じゃあ準備は良いか?始めるぜ。よーい、スタート!」
大将の発生と同時に、『大きな』執事はフォークとスプーンを片手で両方持ち、フォークでカツを刺し、スプーンでご飯をすくって食べ始める。
例のごとくほとんど咀嚼することなく飲み込む。
順調に食べ進めている『大きな』執事を見て、山葵山は安堵した。これなら勝てる。
安心した山葵山は、相手の大食い娘、のどかを見やる。
すると、山葵山は驚きを隠せなかった。
「消えている?」
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