第48話 大食い娘
「今回の仕事は、大食い娘とコラボしている定食屋の大盛りメニューを食べるともらえるブロマイドを手に入れることなんだ。」
「大食い娘?何ですかそれは?」
大食い娘とは、スマホゲームから派生したアニメで人気を博している美少女×大食いのコラボレーションの作品だ。
大食い部に所属する主人公が、様々なお店の大盛りメニューを食べたり、大食い全国大会で全国の猛者と大食いバトルを繰り広げるという内容の話だ。
この作品は実際のお店とコラボレーションしていて、作中にも実際のお店が登場しているものも多い。
今回はそのコラボレーションしているお店のメニューを食べるともらえるブロマイドが欲しいとの依頼だった。
しかし全国的な人気の作品を、しかも食べ物系の作品を『大きな』執事が知らなかったことに山葵山は驚きを隠せない。
ひと通りの説明をしたが、『大きな』執事は全く関心を持っていない。
「興味ないのかい?」
あまりの興味のなさに、山葵山はそう尋ねる。
『大きな』執事は愚問だという雰囲気を出し、答える。
「だって、そんなの見てもお腹は満たされないじゃないですか?」
そうか、彼は食べ物の役割のひとつである、空腹を満たすというものにしか興味がないのか。
山葵山は感嘆した。
世の中の流れを意に介さず、自分の路だけを進む。彼はそういう男だ。
そうこうしている内に、目的地の定食屋『なまずや』に到着した。
店の入り口には、山葵山が先ほど話した大食い娘のコラボ店のステッカーが貼ってあった。その横に元祖という文字も書いてある。
ガラガラッ
店に入ると、昼時は過ぎていたので店内にはあまり人はいない。
厨房に立っている大将らしき人に、好きな席に座るよう言われたので『大きな』執事は迷うことなく入口に近い席に腰掛ける。
一人カウンターに座ろうとしていた山葵山は、どかっという音に反応して、おっとっと、と踵を返してきた。
席に座り、メニューを見るとでかでかと大食い娘とのコラボメニューが描かれていた。
「これこれ、これだよ脂元くん。」
山葵山は女子高生と鯰と共に書かれている『なまずやの丼定麺』の文字を指さした。
「今日はこれを食べてもらいたいんだ。」
なまずやの丼定麺とは名前の通り、丼と定食、麺料理がセットになっている。
唐揚げ定食やレバニラ定食、ハンバーグ定食など4種類+日替わりの定食がある『選べる定食』に、小鉢ならぬ大鉢として天丼やカツ丼、海鮮丼などの丼物、そしてスープとしてラーメンや焼きそば、パスタなどの麺料理が選べる。
「じゃあこれを2つずつですか?」
「いや、僕は食べないよ。それになんで2つずつなんだ。」
「そうですか、じゃあこれを2つですか。」
「いやいや、1つで良いんだよ。君の単位は2からなのかい?」
そんなやり取りをしている最中、山葵山はある事実に気づいてしまう。
『なまずやの丼定麺』:2800円
すると山葵山は徐に財布を取り出して中身を確認する。
まずお札がない。
続いて小銭入れのファスナーを開けると、500円玉ひとつに100円玉が3つ、50円玉1つに10円玉が4つに1円玉が3つ。
青ざめている山葵山を余所に、『大きな』執事は値段の横に、斜体で書かれたBattleの文字を発見する。
「洋一さん、これ何ですか?」
『大きな』執事は、Battleの文字を指さして尋ねる。
何か考えていた山葵山は、面倒くさそうに『大きな』執事の指先を見る。
「Battle?なんだこれは。」
メニュー表を確認すると、一番上にBattleの文言の説明が書かれていた。
Battleとは、当店の看板娘と大食い対決をしていただき、勝つことができたら食事の代金は頂きません。さらに次回使える定食無料券を差し上げます。しかし負けてしまった場合は、代金の4.1倍の代金を頂きます。
山葵山は、読み終わった後もう一度財布に目を落とす。
「脂元くん、男なら戦うしかないだろう?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます