第47話 爆音と轟音

「ごめんくださーい。」

山葵山は砂糖元家に来ていた。『大きな』執事にまた仕事を手伝ってもらいに。


「はいはい、なんですか?」

調理スタッフの酒田さんが応対に出てくる。

「すみません、脂元くんいますか?」

「しもとくん?」

初めて聞く名に、酒田さんは首をかしげる。

「あの100kgは越えてそうな男の子ですよ。」

山葵山は唯一の特徴を挙げる。

すると酒田さんは、あぁあの執事の子ね、と首を縦に数回動かす。

「あの子はまだ寝てますよ。あと1時間もしたら起きてくると思うんだけど。」


時刻は朝の9時。

やはり聞いた通りだな、と山葵山は何か鞄を探っている。

「脂元くんが寝てる部屋ってどこですか?」

鞄を探りながらそう聞く山葵山に、酒田さんは『大きな』執事が寝泊まりしている1回の角部屋に案内する。


「ぐごぉぉ、ずごぉぉ、づごぉぉ。」

「すごい、うの段でいびきをかいている。」

山葵山は思わず感嘆してしまった。

屋敷の中には事前に連絡しないと入れないということで、窓の外から声をかけようかと思ったが、窓を閉じていても聞こえるいびきに聞き入ってしまった。


「すごいですね。窓を閉めても聞こえるこのアジタート。一緒には寝たくないね。」

「これ、一応防音の部屋なんですよ。」

「え?」、と山葵山は驚きを表現している。

「最初は信じられないですよね。」

酒田さんは驚いている山葵山に、優しく語りかける。


「いまなんて言いました?」

驚いていたんじゃない。いびきの音で聞こえていなかったのだ。

ともかく、それほどのいびきなのである。

「これ窓開けても良いですか?」

山葵山がそう聞くと、酒田さんは前のめりになって、

「とんでもない!防音の部屋でこの大きさですよ?窓なんて開けたら耳がおかしくなりますよ。」


山葵山は返事を聞いているのか聞いていないのか、鞄を弄ると携帯用の七輪を取り出した。

「一瞬だけで良いんです。」と言うと山葵山はクーラーボックスからステーキ肉を取り出した。

それを七輪で焼き始めると、良いにおいがいびきのBGMと共に躍り出て来た。


十分な香りが踊り始めたタイミングで、耳を塞いで!、と窓を開ける。

その瞬間、

「ぶごぉぉ!!」

山葵山はあまりの轟音にたじろぐ。

「なんだと、ぬを超えてぶで来たか!」

そんなくだらない声もかき消すほどのいびきに、砂糖元家の屋敷中に爆音が響く。


しかし、七輪の煙が窓から『大きな』執事の部屋に入りこんだ瞬間、ぴたっといびきが止まり静けさが舞い降りた。

すると、半分まで開いていた窓が全開になったかと思うと、何か黒い物体が窓から飛び出してきた。

瞬間、七輪に乗っていたステーキ肉が跡形もなく消えていた。


辺りを見まわすと、『大きな』執事らしき影が窓から部屋に入っていこうとしているのが見えた。

「ちょ、ちょっとまって!脂元くん!」

山葵山は慌てて窓から入っていく『大きな』執事を呼び止める。

こんなにも苦労したのに、また寝入られてしまったら今夜寝るに寝れない。


山葵山に呼び止められた『大きな』執事は、油で満たされた口を擦りながら振り向く。

「あぁ、山葵山さん、どうしたんですか?」

『大きな』執事は眠りを邪魔されて少し不機嫌な様子だ。

「朝早くにすまんね。また脂元くんに手伝ってほしい案件があってね。」

「報酬は?」


要件を聞かずに報酬を先に尋ねる『大きな』執事。

「今回も仕事が報酬の案件なんだ。」

『大きな』執事はそれを聞くや否や、いつの間にやら着替えていた。

「さぁ、場所はどこですか?」

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