第41話 杜子春3
ー「おまえはなにを考えているのだ。」
片目すがめの老人は、三度杜子春の前へきて、おなじことを問いかけました。もちろんかれはそのときも、洛陽の西の門の下に、ほそぼそと霞をやぶっている三日月の光をながめながら、ぼんやりたたずんでいるのです。ー
「俺思ったんだけどさ、杜子春ってこの門の下にくれば火影のおっさんに助けてもらえるって思ってない?」
「そんなことはないわ。きっとここは新宿のガード下みたいなところなのよ。」
「おい、杜子春をホームレスみたいに言うな!、いや今はホームレスか。それより霞をやぶっているってなんだ?」
「これは霞を喰うという言葉の言い方の違いね。霞を喰うとは、昔仙人が霞を食べて生きていたと言われていたことから、浮世離れして収入もなしに暮らすことのたとえね。これはこの後の布石の言葉よ。」
ー「わたしですか。わたしは今夜ねるところもないので、どうしようかと思っているのです。」ー
「このやり取り何回目だよ。杜子春もこいつ分かってて聞いてるんだろ?って思ってるんだろうな。」
ー「そうか。それはかわいそうだな。ではおれがいいことをおしえてやろう。いまこの夕日の中へ立って、おまえの影が地にうつったら、その腹にあたるところを、夜中にほってみるがいい。きっと車にいっぱいのー。」
老人がここまでいいかけると、杜子春はきゅうに手をあげて、そのことばをさえぎりました。
「いや、お金はもういらないのです。」ー
「ははーん、杜子春も流石にお腹を掘るのは嫌だったみたいだな。」
「………」
ー「金はもういらない?ははあ、ではぜいたくをするには、とうとうあきてしまったとみえるな。」
老人はいぶかしそうな目つきをしながら、じっと杜子春の顔をみつめました。
「なに、ぜいたくにあきたのじゃありません。人間というものにあいそがつきたのです。」
杜子春は不平そうな顔をしながら、つっけんどんにこういいました。
「それはおもしろいな。どうしてまた人間にあいそがつきたのだ?」
「人間はみな薄情です。わたしが大金持ちになったときには、世辞も追従もしますけれど、いったん貧乏になってごらんなさい。やさしい顔さえもしてみせはしません。そんなことを考えると、たといもう一度大金持ちになったところが、なんにもならないような気がするのです。」ー
「杜子春さ、気づくの遅くない?」
「そうね、おそらく気づいてはいたけど、欲望に負けてしまったのだと思うわ。それに周りが変わってくれると思ってたのね。でも自分が変わらなきゃ周りも変わらないのよ。」
ー「そうか。いや、おまえはわかい者ににあわず、感心にもののわかる男だ。ではこれからは貧乏にしても、やすらかにくらしてゆくつもりか。」
杜子春はちょいとためらいました。が、すぐに思いきった目をあげると、うったえるように老人の顔を見ながら、
「それもいまのわたしにはできません。ですからわたしはあなたの弟子になって、仙術の修業をしたいと思うのです。いいえ、かくしてはいけません。あなたは道徳の高い仙人でしょう。仙人でなければ、一夜のうちにわたしを天下第一の大金持ちにすることはできないはずです。どうかわたしの先生になって、ふしぎな仙術をおしえてください。」ー
「仙人って、杜子春分かってないな。こいつは火影なんだよ。仙術じゃなくて忍術。たぶんこの後炎龍弾だしたり猿魔呼び寄せたりするぜ。」
「あなたこそ分かってないわね。それに漫画の読み過ぎよ。さっきの杜子春が霞を食べていたのは、片目すがめの老人が仙人であるという示唆なの。続き読むわよ。」
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