第40話 杜子春2

ー杜子春は一日のうちに、洛陽の都でもただ一人という大金持ちになりました。あの老人のことばどおり、夕日に影をうつしてみて、その頭にあたるところを、夜中にそっとほってみたら、大きな車にもあまるくらい、黄金がひと山出てきたのです。ー


「やったな、杜子春!これで一生安泰だぜ!」

「それじゃあ物語にはならないわ。続きを読んでみましょう。」


ー大金持ちになった杜子春は、すぐにりっぱな家を買って、玄宗皇帝にも負けないくらい、ぜいたくなくらしをしはじめました。蘭陵の酒を買わせるやら、桂州の竜眼肉をとりよせるやら、日に四度色のかわるぼたんを庭にうえさせるやら、白くじゃくを何羽もはなし飼いにするやら、玉をあつめるやら、錦をぬわせるやら、香木の車をつくらせるやら、象牙のいすをあつらえるやら、そのぜいたくをいちいち書いていては、いつになってもこの話がおしまいにならないくらいです。ー


「おい、いきなり贅沢しすぎだろ!しかも使用人みたいなの雇ってるじゃん。」

「冒頭にも書いてあった通り、杜子春はもともと金持ちの息子だったの。生活水準を下げることができなかったのね。」

「そんなことより、竜眼肉ってカッコよすぎだろ!まさか、あれは片目すがめの老人の?」

「残念だけど、これはお肉じゃなくて果実みたいね。」


ーするとこういううわさを聞いて、いままで道でゆきあっても、あいさつさえしなかった友だちなどが、朝夕遊びにやってきました。それも一日ごとに数がまして、半年ばかりたつうちには、洛陽の都に名を知られた才子や美人がおおいなかで、杜子春の家へこないものは、一人もないくらいになってしまったのです。ー


「お金だけで人ってこんなに態度が変わるのか?」

「そうね。でも知らない人にお金を使う彼もお金に翻弄されてる一人なのかもね。」


ーしかしいくら大金持ちでも、お金には際限がありますから、さすがにぜいたくやの杜子春も。一年二年とたつうちに、だんだん貧乏になりだしました。そうすると人間は薄情なもので、きのうまでは毎日きた友だちも、きょうは門の前を通ってさえ、あいさつ一つしてゆきません。ましてとうとう三年めの春、また杜子春が以前のとおり、一文なしになってみると、ひろい洛陽の都の中にも、かれに宿をかそうという家は、一軒もなくなってしまいました。ー


「これさ、どっちもどっちだよな。金がなくなったから付き合わなくなる人も、金にものを言わせて付き合わせた杜子春も。」

「そうね、金の切れ目が縁の切れ目とはまさにこのことね。一文無しになったのが春なんて、皮肉よね。」


ーそこでかれはある日の夕方、もぅ一度あの洛陽の西の門の下へいって、ぼんやり空をながめながら、とほうにくれて立っていました。すると、やはりむかしのように、片目すがめの老人が、どこからかすがたをあらわして、

「おまえはなにを考えているのだ。」と、声をかけるではありませんか。

 -中略-

「わたしは今夜ねるところもないので、どうしたものかと考えているのです。」と、おそるおそる返事をしました。

「そうか、それはかわいそうだな。ではおれがいいことを一つおしえてやろう。いまこの夕日の中へ立って、おまえの影が地にうつったら、その胸にあたるところを、夜中にほってみるがいい。きっと車にいっぱいの黄金がうまっているはずだから。」ー


「また火影のじいちゃんが来たぜ。でも自分の胸の中に黄金が入ってるのか?それを掘れって?いかれてんのか?」

「あなたさっきの会話を忘れたの?地面に映る影の胸の部分を掘れってこと。掘るのは土よ。いかれてるのはどっちかしら?」


ー杜子春はその翌日から、たちまち天下第一の大金持ちにかえりました。と同時にあいかわらず、しほうだいなぜいたくをしはじめました。庭にさいているぼたんの花、その中にねむっている白くじゃく、それから刀をのんでみせる、天竺からきた魔法使いーすべてがむかしのとおりなのです。

ですから車にいっぱいあった、あのおびただしい黄金も、また三年ばかりたつうちには、すっかりなくなってしまいました。ー


「おい。また同じ事くりかえしてるぞ。しかも行動も全く同じじゃないか!こいつは学ぶということを知らないのか?」

「そうね、お金は人を馬鹿にするのかもね。でもあなたも学ばなかったから追試になったんじゃなかったかしら?」

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