第38話 捜索

「また本読むの?」

文目はそう言うが、内心は桜児が本に興味を持ってくれて嬉しさもある。

「そう!なんかおすすめの本読んでくれよ。俺取ってくるから!」

「おすすめかぁ、はらぺこあおむしとかどうかしら?」

「おい!それ絵本じゃねぇか!そんくらい知ってるぞ!」

「あら、知ってたの?ごめんなさいね。」

文目は、流石に有名過ぎる本を挙げたことを反省する。

ただ、桜児が読んでて飽きなくて読みやすい本か。

文目は思考する。

走れメロスと同じくらいの短編じゃないと桜児は読めないだろう。

それに休憩のために読む本だし。


「前に読んだ、ださいやつのは?」

「ださいやつ?」

あぁ、だざい、ね。文目は訂正せずに進める。

「太宰治の他の作品は、休憩に読む感じじゃないのよね。」

「じゃあださくないやつでも良いから、俺は本を読みたい!」

太宰さん、かわいそう。文目は思った。

「それなら芥川龍之介の作品なら短い有名なのがあるわ。」

「竜?かっこ良いなそいつ!それにしよう。俺持ってくる!」

桜児はそう言うと、走り出した。

あ。また司書さんに怒られてる。

でも本の場所分かるかしら。

文目は桜児の様子を窺う。


走り出したは良いが、途中で目的を思い出し辺りを見まわし始めた。

龍之介の作品の時代やジャンルを知らない彼は何を頼りに探しているのだろう。

各階に設置されている書籍検索の機械には気づかず、本棚の上にある案内を見ている。

この図書館は専用のアプリを入れれば自分のスマホやタブレットでも検索できるのに。入学式の火に説明されたと思うけど。


彼がいる場所は雑誌や新刊があるコーナー。芥川の作品は無い。

あなたが手に取っているのは雑誌、大きさが違うでしょう?

何やら真剣に読んでるわ。何を読んでいるのかしら。

マラソン特集。もう外に走って来れば良いのに。

あ、ようやくそこのコーナーにないことに気づいたのね。


また辺りを見まわしてる。でも本を探してるわけじゃなさそう。

そうか、図書館のスタッフの人を探してるのかもしれないわ。

でも辺りにはさっき怒られた司書さんしかいないわ。

あ、別のスタッフの人が来た。近づいて行ったわ、聞く気なのね。


あれ?聞かないの?

何やら近くで本を探し始めたわ。

そうか、あっちから「何かお探しですか?」と話しかけられようとしてるのね。

でもここはお店じゃないからなかなか上手くいかないんじゃないかしら。

スタッフの人も本の整理をしているのか忙しそう。

「あれー?どこだぁ?」

ついに言葉でのアピールが始まった。

しかしスタッフの人は気づかずに2階へと上がってしまった。


残るは私のとこに帰ってくるか、怒られた司書さんに聞くしかない。

多分彼もそう考えてる様子だ。検索の機械の前で。

どうでも良いけど早くして欲しいわ。


腹を決めた様子で、司書さんの所へ向かった

何か話してる、何を話してるのかしら。

「****、えーと、******りゅうじ?*****」

良く聞こえない、少し近づいてみよう。


「名前が分からないんじゃ、こちらも案内できないでしょ?」

「えーと、りゅうた?りゅうがついたんだけど。」


「‥‥‥‥。」

あ、こっちに戻って来る。

「なぁ、名前なんだっけ?りゅうきちだっけ?」

「一緒に行きましょう。」

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