第37話 休憩

桜児に渡された書類の、英国数の欄に署名をする文目。きちんと名前を書いて桜児に渡す。

書類を渡された桜児は、やったー、とA4の紙を頭上に掲げる。

ここまで嬉しそうにされると、こっちが恥ずかしくなってしまう。

文目は図書館であることを忘れて、飛んではしゃぐ桜児を見て自分もうれしい気持ちになった。


びりびりびりっ

「あぁ!破いちまった!」

「静かにしなさい!」

桜児は用紙が破れた悲しさと、司書さんに怒られた恥ずかしさで呆然としている。

「秋冬君、秋冬君。」

文目は自分で破いた紙を見つめて動かない桜児を静かにこちらの世界に引き寄せる。


「紙はまた雲龍先生にもらえば良いでしょう?そうしたらまた名前書くから。ね?」

すると桜児はにっかりと顔を上げて笑顔になる。

「もう一回契約してくれるのか?ありがとう!」

契約って、将来が不安だわ。

文目は桜児の未来を案じつつも、楽しそうな姿を見てほっともしてる。


「じゃあ早速勉強教えてもらっても良いか?」

「え?今から?」

文目は一度契約が破棄されたものとばかり安心していたが、どうやら契約前作業の強要をされているようだ。

「なぁ、良いだろ?その分お礼も弾むからさ!」

これは何かの営業をされているんだろうか。

少し付き合ってみることにする。

「お礼って?」


「貂彩ポイントって知ってるか?」

「貂彩ポイント?テストや校内・校外活動でもらえるポイントのこと?」

「え?そんなのでももらえるのか!?」

知ってるか?って聞いてきたのはお前だろうg、。

文目は笑顔で答える。


「その貂彩ポイントがどうかしたの?」

「貂彩ポイント?あ、そう、それ。」

「ん?どれ?」

「貂彩ポイント!それを俺が先生に頼んで、ささーやにあげるよ!」


文目は署名するにあたっては契約書をきちんと読むタイプだ。

先程、桜児が破いた書類には追試の成績に対して貂彩ポイントが付与されると書いてあった。

41点以上で5000p、51点以上で10000p、61点以上で15000p、という様に書かれていた。

契約に含まれているものを、まるで自分から契約したらもらえるかの如く伝える。

文目は少し意地悪をしてみる。


「貂彩ポイントもらえるんだ。じゃあ秋冬君が60点とれたら20000ポイントくらいお願いしたりできるの?」

桜児は自分で破いた書類の、ポイント付与の箇所をさりげなく確認する。

「うーんと、ね。いや、60点じゃだめだ。61点で15000ポイントなら良いよ!」

「えー、その1点で何が違うの?1点くらいまけてよ。」

「だめなの!」

文目は必死に考えている桜児を見て少し可哀そうになったので、この話は終わりにした。


「じゃあちょっとだけ教えてあげるから、教科書持ってる?」

おう!と桜児は元気よくリュックサックから教科書を出す。

「まずは数学からな!」


ー10分後ー

「なぁなぁ、ささーや。そろそろ休憩にしようぜ。」

「休憩?まだ10分しか経ってないじゃない。」

「良いじゃん、さっきちょっと頭使っちゃったからさ。」

さっきというのは、不正契約のことだろうか。

「そうだ、前みたいに一緒に本読んでくれよ!あれから少し本に興味出て来たんだよ!」

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