第36話 師を求めて

「はぁ、俺に教えてくれる人なんているかな。」

秋冬桜児は、追試のために勉強を教えてくれる人を探すこととなった。

とりあえず、同じクラスで教えてくれる人を探すことにしたが、なかなか見つからない。


「なぁ大地、実は追試の勉強を教えてくれる人を探してるんだけど、教えてくれない?」

「悪いな桜児。いまバレーの大会があるんだ。すまん。」

「まじか~、分かった他の人に声かけてみるわ。サンキュな。」


「啓二、勉強教えてくれない?」

「自分、60点超えてるのは体育だけです!」

「遊佐、勉強教えてくれない?」

「すみません、10月の行事に向けて生徒会の業務が多くて。」

「薊、あの、さ。勉強教えてくれない?」

「え?嫌なんだけど?」


駄目だ、なかなか見つからない。

康介は大地と同じバレー部だから無理だろうし、他の人は仲良くないから頼みづらいし。

後は女子か。鯨谷はバレー部だから多分無理だろう。

鰹木も遊佐と同じ生徒会だからダメ。他の人も忙しそうだし。

他に暇そうなのは、、鮫口は暇そうだけど教えてくれなさそうだし、後は砂糖元くらいか。


砂糖元に頼んでみるか。どこにいるかな?

あ、鰈埼がいるな。多分砂糖元の居場所知ってるだろう。

桜児は希美の居場所を親友である琴音に聞いてみることにした。

「なぁ鰈埼。砂糖元がどこにいるか知らないか?」

「希美ちゃんなら図書館にいるよ~。でもなんで希美ちゃん探してるの?」

「いや、恥ずかしながら追試になっちゃってさ。砂糖元に勉強教えて欲しくて。あいつ確か頭良かったろ?」

桜児は追試のことは知られたくなかったが、あらぬうわさを立てられたくないと考えて正直に答える。


「いいなぁ、わたしもべんきょー教えて欲しい。いっしょ行こ~。」

琴音はそう言うと、荷物をまとめてトコトコと歩き出す。

「お、おい!待ってくれよ。」

桜児はまた図書館か、と思いつつも琴音に付いて図書館に行くことにした。


琴音は図書館の入口に元気よく入ると、希美ちゃーん、と図書館やぶりをする。

すると、受付で退館手続きをしていた希美が目を丸くしてこちらを見ている。

「希美ちゃん、勉強おしえて~。」

「え?勉強?」

希美は突然のことで頭が真っ白になっていた。


「ごめん、砂糖元。勉強教えて欲しいのは俺なんだ。実は、、」

桜児は事の経緯を希美に伝える。

希美は経緯は理解したが、申し訳なさそうに話す。

「事情は分かったけど、ごめんなさい。文化祭のライブに軽音部で出ることになって。その練習で時間がないの。それに、琴音。あなたもこれから練習でしょ?早く行くわよ。」

「あ~、そう言えばそうだった!」

じゃあ、と希美と琴音は連れ立って図書館を後にする。


残された桜児は途方に暮れていた。

後他に頼める人がいるか。そう考えていると奥のテーブルに見知ったか顔を発見した。

「ささーやじゃん!この前はありがとうな!」

奥のテーブルには、先日走れメロスを一緒に読んだ笹本文目が本を読んでいた。


「秋冬君、ここは図書館なんだからもう少し静かにして。」

悪い悪い、と文目の正面に座った桜児は真剣な顔で懇願する。

「実は1学期の成績が悪くて追試になっちゃってさ。」

事の経緯を文目に伝える。そして、まず基本教科の成績を確認した。

「英語、数学、国語、技術?それなら一応全部60点は超えてるけど。でも技術は自信ないから他の人捜した方が良いかもしれないわ。」

「じゃあ、技術以外なら教えてくれるのか!?」


桜児の勢いに気おされた文目は、頷くしかなかった。

「教えるくらいなら、良いけど。」

それを聞いた桜児は、やったー、と司書さんがこちらをチラチラ見てるのも気にせずガッツポーズをする。

「じゃあじゃあ、この書類に名前書いてもらって良いか?技術は誰か探すから。」

強引に名前を書かされた文目は、詐欺や違法契約というのは、こうやって交わされるのね。と悟った。

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