第35話 一息

「ふぅー。今日も疲れた~。大吾さんも大変でしたね。」

ここは砂糖元家の大浴場。砂糖元家は泊まり込みの使用人も多くいるので、旅館の様な大浴場がある。

そんな大浴場で、庭師の酢矢と料理長の大吾が疲れを癒している。


「そうだね、今日は啓介君の食事のことで之弥さんと色々試作してたからね。」

「何か面白そうな食材が必要だったら言ってくださいね!」

この庭師は面白いことしか考えていないのか。今日も『大きな』執事を食べ物を置いて誘導して落とし穴に入れていたようだ。

「ちょっと窓開けても良いですか?」

良いよ、と大吾が答えると酢矢は窓際にあるボタンを押す。

すると窓が引き戸のように自動で開き、小さな庭が見えるようになった。


「この庭も酢矢君が作ったんだよね、とても良いね。」

「そうなんすよ。新しく追加された庭師と作ったんですけどね、色々教えながらやったんで大変でしたよ。男女で違う雰囲気にして欲しいって言われて。」

酢矢はそう言いながら、この土も拘ってるんですよと言いながら嬉しそうに語る。


「しかし最近この大浴場が男女別になって、快適になりましたね。時間気にしなくて入れるし。」

そう、『大きな』執事が来たことにより調理組の人数が増え、庭師も追加も含めて使用人の数が多くなったことにより、大浴場が1つ増えたのだ。

「確かにいつでも入れるようになったのはありがたいね。でも掃除も大変みたいで、あかねさんがすごく文句言ってたよ。」


「あー、確かに脂元が来てから人が増えて管理が大変になったって言ってましたね~。『なんであんなデブのために』なんて荒れてましたね。」


ーガラガラ!

「ふぅ。」

噂をすれば、大きな音と共に『大きな』執事が入って来た。

「おう、脂元!お前も大変だったな。」

「うわぁ!」

『大きな』執事は叫び声と共に、タオルで胸を隠す。

「胸より下を隠せよ!」

酢矢がそう言うと、『大きな』執事は安心してくださいと言わんばかりに

「大丈夫だよ、下は下っ腹で隠れてるから。」

確かに、『大きな』執事の股間はその大きな腹で覆いつくされている。

酢矢はそうだったな、と微笑しながら湯船につかる。


「それより、大変だったななんて、全部お前のせいだろ。」

『大きな』執事の体は泥まみれになっている。

「いやぁ、まさかあそこまで上手くいくとは俺も思ってなかったよ。『うわぁぁー』って言いながら落ちるお前の姿はすごかったよ。動画を撮ってなかったことが悔やまれる。」

『大きな』執事は文句を言っても意味ないことを悟り、泥にまみれた体をシャワーで流す。


ふぅ、と『大きな』執事が泥を流して湯船に入ろうとするが、

「おい、背中のあたりにまだ泥が残ってるぞ。」

えっ、うそ?と言いながら、鏡で背中を確認する。

ほんとだ、と言いながらシャワーで背中を流す。

すると忍び足で近づいてきた庭師が、『大きな』執事の頭にシャンプーをかける。

「うわ、何すんだよー。」

ケタケタと笑いながら嬉しそうにしている庭師にシャワーをかけて遠ざけて、『大きな』執事は今度は頭を洗い流す。


ふぅ、今度こそ大丈夫、と湯船につかろうとするとまたしても笑顔の庭師が止める。

「おい、脇腹のあたりにまだ泥が残ってるぞ。」

ええっ、うそ!?と『大きな』執事は脇腹を確認すると、確かに泥がついてる。

これはおかしい、と酢矢を訝しむ『大きな』執事。

泥をシャワーで落としながらも、庭師の動向を気にする。

案の定シャンプーを持って近づこうとするので、シャワーで攻撃する。

しかし軽やかにシャワーを躱しつつ近づいてくる庭師。

そして近くまでやって来た庭師はシャンプーを頭にかけようとするが両手でブロックして阻止をするが、その隙に自慢の下っ腹に何かをぶつけられた。


うわぁ、と下っ腹を確認すると、そこには泥がついていた。

「やっぱりお前がつけてたのか!どこから持ってきてるんだ?」

『大きな』執事は泥を落としつつ酢矢に尋ねる。

「すぐそこに庭があって、そこから持ってきてんだよ。」

酢矢は窓の外を指し示す。

すると窓が開くことを知らなかった『大きな』執事は、興味津々に窓辺に近づく。


「この窓って開くようになってるんだ!すごいね。これどうやって開くうわぁ!」

『大きな』執事が振り向くと同時に、タックルを喰らって庭に倒れこむ。

またも泥だらけになった『大きな』執事は、何すんだよーと言いつつも手慣れたようにシャーワーで泥を流す。

ケタケタと笑う庭師の横目に、大吾はぐちゃぐちゃになった庭を眺めた。


「酢矢君、庭が大変なことになってるよ。どうすんのこれ?」

心配する大吾を横目に、酢矢は安心してくださいと言わんばかりに

「大丈夫です、これを想定してすぐ直るようになってるんで。」

大吾は面白いことに全力を尽くす庭師の技量に感心すると共に少し怖くなった。

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