第31話 悪因悪果1

「いやぁ、助かったよ脂元君。いつも悪いね。」

『大きな』執事は山葵山と幸子と共に烏翼線の車内にいた。

「こちらこそ、良いんですか?ご飯奢ってもらっちゃって。」

「良いんだよ。今回の依頼は梅坂のラーメン屋『空手家』の特大ラーメンの景品だったんだ。」

「景品?そんなのありましたっけ?」

『大きな』執事は食べ物のことしか興味がない。

「もう脂元さん。一緒に景品持って写真撮ったじゃないですか?」

幸子はそう言いながら、袋から景品を出して『大きな』執事の前に差し出す。

「あ、これはありがとうございます。箸をもらっても良いですか?」

「違う、これはラーメンじゃないです!ラーメンのどんぶりの加湿器って店員の人も言ってたじゃないですか。」

よく見ると確かにラーメン風になってはいるが、食品サンプルのようになっている。


「これは普通に水を入れればただの加湿器だけど、専用のオイルを入れるとラーメンの香りになるの。で、色んなラーメン屋さんがコラボしてて、そのお店で指定された条件でラーメンを完食するとこの加湿器とオイルがもらえるの。加盟しているラーメン屋さんはもう全国で1万店舗を超えてるの。」

『大きな』執事は幸子の説明に疑問を投げかける。

「えっ?1万店舗?確か全国のラーメン屋って2万4千店くらいですよね?その半分くらいが参加してるんですか?」


「あ、ここどうぞ!」

「すみません、ありがとうございます。」

『大きな』執事の無駄な知識をさらりと躱し、幸子は目の前に来た女性に席を譲った。


「幸子さん、さっきどうして席を譲ったんですか?」

『大きな』執事は、先ほどの電車内での出来事について、三十路川駅からの道すがら幸子に尋ねた。

「あぁ、彼女のバッグにマタニティマークがついてたからだよ。」

「マタニティマーク?何ですか、それ?」

「マタニティマークは妊娠してますよって周りの人に教えてくれるマークでね。電車とかバスとかで席を譲りやすいようにとか、飲食店で喫煙席から遠い席に配慮できるように妊婦さんがつけるマークなんだよ。」

「へぇ、そんなのがあるんですね~。」

「マタニティマーク、か。」『大きな』執事はそう反芻しながら、何やら考えていた。


ー数日後ー

「いやぁ脂元君。今日もありがとうね。」

『大きな』執事は今日も県内のラーメン屋で山葵山の依頼でラーメンを食べていた。

「いやぁ、僕はただ食べてるだけですから。ただ、今日のは流石にきつかったですね。」

今日のラーメンは特大のラーメンに加えてチャーハンと餃子の、どれも特大の、セットだったため、流石の『大きな』執事も辛そうだ。


「僕はこれから、鐘馬の方で草刈りをしてくるから、ここで失礼するよ。」

山葵山はそう言うと、遠鉄で三十日市方面の電車に飛び乗った。

『大きな』執事は、山葵山が電車に乗って離れていくのを確認して、先日すぐに手に入れたマタニティマークをポケットから取り出して、リュックサックに取り付けた。


そして『大きな』執事は梅坂方面の電車によろよろと乗車した。

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