第24話 走れメロス6

ーそれを聞いて王は、残虐な気持ちで、そっと北叟笑んだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙された振りをして、放してやるのも面白い。そうして身代わりの男を、三日目に殺してやるのも気味がいい。人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代わりの男を磔刑に処してやるのだ。世の中の、正直者とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。ー


「王様めっちゃ悪いやつじゃん。」

「権力者の周りには忠誠心を装って悪心を宿している人が多いのよ。あなたみたいな単細胞ばかりじゃないのよ、きっと。」

「そういうもんかー。」


ー「願いを、聞いた。その身代わりを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代わりを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。お前の罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」

「なに、何をおっしゃる。」

「はは、いのちが大事だったら、おくれて来い。お前の心は、わかっているぞ。」ー


「こいつ何言ってんだ?遅れてきたら俺のセリヌンティウスが殺されちまうんだぞ?絶対帰ってくるに決まってるだろ!」

「そうね、あなたならそうするわね。でも王様はそういう人達を何人も見てきたんだわ。それと、あなたのセリヌンティウスではないわ。」


ーメロスはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、翌る日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事を始めていた。

 -中略-

メロスは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。

眼が覚めたのは夜だった。メロスは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。婿の牧人は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、葡萄の季節まで待ってくれ、と答えた。メロスは、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押して頼んだ。婿の牧人も頑強であった。なかなか承諾してくれない。夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。ー


「メロスめっちゃ強引じゃん。そりゃ明日結婚式挙げようって言われたら断るよな。」

「メロスは2日後に殺されてしまうから、当然のことじゃないかしら?それでも妹の結婚式を何としてでも挙げたいなんて、とても妹想いの素晴らしい人だと思うけど。」

「そっかぁ、メロスはすごいなー。」


ー「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が覚めたら、すぐに市へ出かける。大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうお前には優しい亭主があるのだから、決して寂しい事は無い。おまえの兄の、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。おまえも、それは、知っているね。亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」

花嫁は、夢見心地で首肯いた。メロスは、それから花婿の肩をたたいて、

「仕度の無いのはお互いさまさ。私の家にも、宝といっては、妹と羊だけだ。他には、何も無い。全部あげよう。もう一つ、メロスの弟になったことを誇ってくれ。」ー


「メロスってめっちゃ自信家だよな。俺は偉いとか、弟になったことを誇れとか。」

「そうね、自信を持つことは大事なことね。それよりも、この場面では全ての人を疑う王様と、疑う事を許さぬメロスの対比を表現している点についても触れて欲しいわね。」

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