第二章 ガーベラ伯爵令嬢の多忙 581話
私はガーベラ・サカ。現在の立場はグエン・サカ伯爵の娘。いわゆる伯爵令嬢。グロリア学園の最上級生。元生徒会役員。キャロライナ王女が学生の時は側近の一人でした。
現在はレイシア様とアリア様の教育係を仰せつかっています。
早く卒業して、キャロライナ様の側近として、また黒猫グループ美容部門の責任者として働きたいと思っているのです。
そう、キャロライナ様に出会えたことが私にとっての僥倖でした。家のために好きでもない男のもとに嫁ぐ、それ以外の人生があること。女性が一人の人間として認めさせることができるという選択ができるということを教えてくださったのはキャロライナ様なのです。
幸い、私たちの年代は王子と年が近く、婚約者候補としてリスト入りしている令嬢以外でも婚約者が決まっていない女子が多かったのです。子爵家以下は今がチャンスと少しでも高い爵位の家の男性を狙っていたのですが、男性自体も高位の令嬢とのチャンスを狙うため婚約を決めていない方々ばかりでした。
秘密裏に作られていた婚約者候補の令嬢には、王妃教育(中級)まで行われていたのです。
私も受けさせられていました。伯爵ですが、貿易港を抱えるサカ家の財力と母譲りの美貌、それに王女の側近になれるほどの才能と実力を評価されたのでしょう。
まあ、レイシア様とアリア様の噂が流れた途端、そのリストは意味を失い、状況は混乱を極めたのですが。
一斉に高位のご令嬢に婚約の申し込みが殺到しました。
婚約者のいない私にも多くのお話が舞い込んできました。ですが、王女の信頼を得ているため、そしてレイシア様がわたくしの父の信用を得ていることも大きく、婚約より仕事を選べる環境になったのです。
王家の血を引くキャロライナ様と、大金と魔道具で次々と新しい仕事と流行を生み出すレイシア様。父としてもこの縁を大事にしたいと思うのは当然のことですわ。
特待生の誉れも相まって、ゼミもレイシア様と一緒のシャルドネゼミへ移動しましたし、来年はキャロライナ様の側近として黒猫グループ美容部門の一員になることが決まっているのです。
そんなわけで、レイシア様とアリア様、ついでにヒラタのダリアに令嬢教育を行いながら、レイシア様とは今後のことについても綿密に打ち合わせをしていたのです。
◇
夏休みに向けアリア様のヒラタ伯爵家への移籍と同居の計画を練っていましたら、キャロライナ様がレイシア様の生まれ故郷ターナー領にお忍びで向かうという計画が突如立ち上がったのです。
私が行かないわけにはいきませんよね!
キャロライナ様からは、「レイシアとサチが護衛で入るからガーベラは無理しなくても大丈夫ですよ」と言われましたが、そんなわけにはまいりません!
キャロライナ様のお忍び旅です! そんな楽しそうなところに私がいないなんて……いえ、私が両腕となってキャロライナ様の補助をしなくてはいけません!
キャロライナ様がご結婚なされて王家を離れたら、今お世話をしている執事やメイドのほとんどはそのまま王宮に残ることでしょう。
一部は帝国皇子、キャロライナ様の旦那様の行動を探るために付けられるでしょうが。
それでも、いつ返されるかもしれません。ここは王室と無関係でビジネスも行える私がキャロライナ様の側近筆頭として付き添わねばいけないのです。今後のためにも。
ヒラタの件はダリアとビオラを中心に動いてもらいましょう。大丈夫です。
私、必ずターナーに付いていきますよ、キャロライナ様!
◇
嫉妬はいけないですわ。サチさんまで同室なのは護衛なのですから当然ですね。ええ、客人として? まあ、そうですね、ではサチ様にも令嬢の厳しさを体験していただきましょう。レイシア様と学園に来ているのですから、アリア様と一緒に王妃教育(初歩)を受けさせてもいいかもしれません。騎士爵同等になるのですから。
サチ様のお相手のシロエ様は、とある貴族の出身で学園に通っていたことは調査済みですから。
仕込みがいがありそうですわ。フフフフフ。
では、あの二人には出来ない、キャロライナ様のための仕事を致しましょう。キャロライナ様とアマリーの領主の意向を調整しながらスケジュールを作り、なるべく負担を軽く抑える。
側近として秘書の役割はこなさないといけませんわね。
料理人に味付けの好みを伝え、メイドたちの役割分担を確認した。
側近は目立たずに必要なことをこなし、問題が起きるのを未然に防ぐ。空気のように気が付かれず、しかし絶対必要な存在にならなければいけないのです。
翌日、サチとレイシアを連れて出かけた後もやることはいっぱいです。
館に残り、執事やメイドと打ち合わせをし、本日夕方から行われる歓迎パーティーの名簿をチェックし、出席者の立場や仕事や趣味、どのような要望を持ってくるのか、そのような情報を領主交えて検討し、パーティーが始まる前に報告するための書類を作らせる。
メイドと三人のドレスと装飾品をチェックし、メイクとヘアスタイルを決める。これは執事じゃどうにもならない。女性でしか分からない世界。
特にサチはドレスに慣れていないから、コルセットをきつく巻いて常にドレスを着ていることに意識を集中させ、変な動きができないようにしなくてはいけません。
レイシア様は子爵ですが、商会長という立場も加味し、宝石はかなりいいものをつけて頂きましょう。ゴテゴテした分かりやすいのはレイシア様の好みでないでしょうから、見る人が見ればわかる品の良さをテーマにしましょうか。
キャロライナ様は存在そのものが尊すぎます。最高級の絹の光沢を生かしたAラインのドレスに、ティアラを模したシルバーを台座にして様々な宝石を散らしたネックレス。王女の品格はこれで分らせましょう。
髪はあえて三人とも結わず、シャンプーの効果を見せつけましょう。サラサラの髪がどれだけ素晴らしいか。そうですね、アマリーの領主にはお土産として差し上げてもいいかもしれませんね。
影の仕事は評価されづらいですが、キャロライナ様はわかってくださっています。それで十分なのです。
◇
アマリーへの移動も、キャロライナ様とは別の馬車になりました。仕方ありません。メイドたちにキャロライナ様の普段の様子を聞いたり、打ち合わせをしました。
キャロライナ様、お独りの時そんなにかわいいことをしているのですか! ええ分っています。内緒ですね。
ですが……うらやましいです。私もこっそり聞いてみたいです!
キャロライナ様の意外な一面を聞くことができて、それはそれで有意義でした。
思った以上に移動に時間がかかってしまいました。サチさんが上手く誘導しなければ、大変なことになっていたのですか? 私もまだまだです。旅慣れていないとはいえ、予測すらできないとは。はぁ。
遅く着き、総督の厚意で夜の予定はなくなりました。そのことに感謝を伝えながら、明日の予定と打ち合わせを夜遅くまで行いました。
イベントが一つ流れると、埋め合わせが大変なのですから。
◇
翌日、お忍びで街を回りたいというキャロライナ様の意向と、いない間に準備を行いたいというスタッフの意向が合致し、午前中は外出して頂きました。
私も一緒に見て回りたい!
そんな欲望をぐっと抑え、裏方として各方面に指示を出す。執事にまかせることはまかせ、私は私の出来ることを精一杯こなすだけ。
と思っていたら、キャロライナ様だけ帰ってこられました。
は? 老舗旅館の女将を追いやる? 何をおっしゃっているのですか? はぁ。はぁぁ!!!
書かれた要望書? なのでしょうか。それはそれは女性に対してひどいものでした。なるほど。旧態依然の女性蔑視者は確かに裁かれなくてはいけませんね。
総督、一体この領地はどうなっているのですか! はぁ? あの親子はもともと評判が? あ、レイシア様! 不正の証拠が挙がった? さすがです。サチさんも商人からいろいろと情報を。
真っ黒ですわね。
キャロライナ様が「ざまぁできないかな」とつぶやいております。
昨日馬車の中で聞いた、キャロライナ様がお一人でお芝居のセリフを、役になり切って口にしているという話を思い出しました。
「キャロライナ様、歓迎パーティーでお芝居をするのはいかがでしょうか。悪役令嬢に扮した王女が世直しのため、あくどい女将と息子、それに不正を働いた役人を懲らしめる断罪劇です」
思いついたアイデアを話しましたら、キャロライナ様はとてもやる気になってしまいました。
では、シミュレーションをアドリブでやってみませんか? 演出はお任せください。
と、その前に女将と息子にパーティーの案内を出さなくては。総督よろしいですね、すぐに使いのものに招待状を持たせなさい。
キャロライナ様の演技指導、とても楽しいですわ。レイシア様! もっとわき役らしく。サチさん、物理と迫力と刃物で解決してはいけません! 主役はキャロライナ様です。余計なアドリブいりませんから!
本番はばっちりでございました。はぅ。キャロライナ様の悪役令嬢ぶり。素敵でしたわ。
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