第四章 王子の夏休み 355話

「私達、生徒会に夏休みを楽しむ余地などないのよ! あなたも来なさい」


 姉の手伝いで、生徒会の仕事を振られた俺は学校に連れてこられた。今日はイリアを呼び出して2冊目の暴露本と、三冊目の改革案を書かせる相談をする予定だったのに。


 こないだ会った時イリアはやりたくなさそうだったが、いまさら書きたくないとか言わせない。特に、改革案はイリア以外には任せられない。硬い文章では駄目なんだ。ラノベ作家の本領を発揮してもらい、読みやすく・面白く・共感性の高い文章にしてもらわないとな。無理だなんて言わせない!

 しかし、こんなにも書籍を使ったプロパガンダが成功するとは思わなかった。本にこれだけの影響力があるなんて、誰も知らなかった。それもこれも教会のせいなのか? 本に対して制限かけ過ぎじゃないのか?


 まあそんなことは考えても仕方がない。とにかく騎士団の腐敗の証拠は手に入れた。後はそれをどう使うかだ。司法に任せたら今までのままだ。俺は俺なりのやり方で押し通す。そのためのイリアだ。逃がすものか。パワハーラ・ダメックの一派は断罪した。俺と戦ったダーンを隊長に格上げし、騎士たちをまとめさせている。ヤツの人気も本を通じて上げておいたから、そのうちもっと良い地位に付けさせよう。信用できる者は貴重だからな。


 そんなことで忙しいのに、生徒会を手伝わされる俺。はいはい、姉には頭が上がらないですよ。まったく。姉が男だったら、俺はいつでも後継者の席を譲ったのに。


「ごちゃごちゃ言わず働きなさい。三年生になったら問答無用であなたは生徒会入り、四年生で副会長か、私の代わりに生徒会長になるのは決まっているんだから。いまから仕事を覚えていた方がいいわ。二年生だけど特別に手伝わせているんだから、感謝しなさい」


 そう言われても、生徒会って三年生からしか入れないはずでは。宰相の息子チャーリーも手伝わされているんだけど?


「あなたが王族だからよ。あなたの代で生徒会が機能しなくなったらどうするの。それにしても使えないやつばかりね。あなたの学年の子たち。クラスでどんな指導をしているの?」


「Aクラスは、俺ともう一人しかいないよ」

「あ、ああ、あの子か……。あれはダメ……」


 めずらしく姉が困惑したような顔で拒否した。才能重視の姉が。めずらしい……というか何かしたかレイシア。


「あの子は私の手には負えそうもない。……まず常識がたりなさすぎるわ。周りからの評判も良くないようだし」


 確かに非常識だな。


「とにかく、私達の夏休みは前半で終わったと思いなさい。これから学園祭に向けて、各ゼミや任意のグループでの企画申請、ダンスパーティーの段取りと手配、先生方との連絡や許可申請、学園に出入りしている商会との調整、やることは山ほどあるわ! 各自気を抜かず、連絡を密にし、困ったことは相談すること。一人で解決しようとしないでね。では、第三回、企画会議を始めます。みんな、席に着くように!」


 こうして俺の八月は、生徒会の手伝いと、騎士団の改革で尋常じゃない忙しさを迎えたのだった。



 姉からの駄目出しは各種に渡った。時に俺以外の二年生のやる気と実力に対しては容赦がない。


「これで王族に仕える役につこうとでも?」

「あらあなた、王妃を狙っているわけ? そんな無能で? 顔と家柄だけでは王妃など務まらなくてよ」

「側近候補? あなたが? 出直しておいで」


 姉から辛辣な言葉が浴びせられる。女子など泣き出すのだが、そんなことはお構いなしだ。そうして最後は、俺の指導が悪いと、全部俺のせいになる。


「使えない人材で周りが固まったら、国はすぐに堕落するものよ。あなたも騎士団見て分ったでしょう? いくらあなたに才能があっても、実際動くのは周りなのよ。今のうちに側近候補と嫁候補を鍛えておくことね。私は側近を鍛え上げたわ。周りが愚図なのは、あなたの責任よ」


 そうなのか? 違うだろう! 俺は頑張った。俺だけじゃない。レイシアみたいに頑張っているやつも……、あれ? レイシアしかいないのか?


 腑に落ちないながらも、なにか考えないといけないな、と思った。



 学園祭当日。俺は二年生をまとめながら、トラブル解決の窓口をしていた。していたのだが……。本当に役に立たないな! 二年生のヤツら! 俺に黙って遊びに行ったり、いなくなったり。仕事を任せても、余計トラブルを大きくして、結局俺が駆けずり回り、頭を下げ、事を収めた。役に立たないどころか、いない方がましだ。


「分かった? 無能はいらないってこと。そして、やる気のある無能は、もっとも厄介だってこと」


 姉が、疲れている俺にダメージを与えに来た。


「だから、自分だけでなく周りを育てないといけないのよ。まだ時間はあるわ。周りと協力できるぐらいには側近候補は育てなさい。あなたは国を動かす王にならないといけないのだから」


 そう言うと、硬貨が詰まった財布を俺にくれた。


「はい。今日までの報酬。あなた現金持たせて貰っていないでしょう? お祭り楽しむなら現金がないといけないわ。これで、友達でも気になる子でも誘って楽しんできなさい。生徒会の仕事はもういいから」


 誰か誘って楽しむか……。誰もいないな、誘いたいヤツなんて。レイシアでもいれば楽しいかもしれないが……。あいつならなにかしでかしてくれそうだし。まあ、ヤツは学園祭なんて来ないだろうけど。


「いいよ。このまま働く。その方が俺のためになりそうだ」


 レイシアがぼっちだとは思っていたんだが。……おれも十分ぼっちだったんだな。対等なヤツはレイシアしかいないようだ。

 他のやつらといても楽しめそうもない気がして、俺はそのまま生徒会の仕事を黙々とこなすことにした。姉が残念な子を見るように俺を見ていたのは知らないふりをしよう。


「ダンスパーティー。生徒会の仕事があるってことで出ないでいいかな」


 そう姉に行ったら、「王族の義務です!」と怒られた。




 最近レイシアとしか踊っていないから、足踏まれないように緊張感をもったダンスしかしていないんだよな。優雅なダンスじゃ物足りなく感じる。

 作り笑顔で対応するパーティー。つまらない。何が楽しくてパーティーにきているんだろう。子供の時は楽しかったのに……子供のままでいられたらよかったのに。


 王族としての責任が、重くのしかかる。大人になるってこういうことなのかな。

 溜息を噛み殺して、俺はにこやかに笑ってみせた。

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