第五章 王女のため息 366話

 ノブレス・オブリージュ。

 ふっ、呪いの言葉ね。


 真面目になればなるほどこの言葉に縛られてくる。でも仕方がない、私は王女。この王国の女性の中で一番恵まれた存在。高貴なるものはより多くの義務を持たなければならないのよね。


 はぁ~。一体どれほどの貴族がそれを守っているというのかしら。そもそも覚えているのかな? 王族にばかり義務を押し付け言いたい放題の貴族なんて、落ちぶれてしまえばいいのに。


 私が王子だったら……。女性って損よね。やりたいこともできやしないわ。やがて国のためにどこかに嫁がされるのよ。他国でなければいいんだけど。


 私はこの国を変えたい。進歩を嫌い停滞が美学と考える、この国の雰囲気を一掃したいの。だから勉強もした。弟も鍛えた。私の周りの貴族子女達の学力とかも上げさせた。


 ……でも私は王女。権限は何もない……。


 はぁ。男に生まれたかったわ。

 弟に託したいんだけど、あの子私が鍛えすぎたせいか、周りを見くびり過ぎて他の子供たちと距離をおくようになったわ。なんとかしないと。


 見守るだけもそろそろやめるか。


 学園祭手伝わせて、現実を知らしめよう。最近、騎士団にちょっかいをだして、なんだかやる気になっているみたいだから、ちょうどいいわね。


 そういえばレイシアだっけ。弟以外では2年生唯一のA評価の学生。貴族のマナーも礼節もない平民の蛮族みたいな子。あっ、思い出したら寒気が……。なんであんな子だけが勉強できるの? せめてマナーができていれば、生徒会に入れて様子を見られたのに……。


 弟の周りは残念な子だらけね。


 まあ、レイシアって子、少し調べてみましょうか。評判を聞くくらいはしてみましょう。もしかしたら学園で成長したかもしれませんし。


 はぁ~。それにしても弟の周りは……。あ~~~。


 私の有能な側近たち。もし私がどこか他の国に嫁がされる時、一緒にこの国を出たら弟は一体どうする気なのでしょう。私がこの国にいれば手伝わせておけますのに。

 有能な人材を流出させることになるの、気づいているのでしょうか。


 学園長は教育の改革を目指して何かたくらんでいる様なのですが、私には詳細を教えてくれませんし、弟の学年ではまだまだ何も効果が出ないことでしょう。


 やはりここは、私の有能さをアピールして、この国に必要だと思い知らさなければいけませんね。


 お父様や大臣たちに、私が他国に嫁ぐより、この国にいることのメリットの方が大きいと思わせないと。それには実績を積まなくてはいけませんわね。それも学園にいる間に。婚約を決めさせられる前に。


 あと二年。何をしよう。何ができる? なにかしなければ。


 …………私がしたいことは何?


 側近はいても、悩みを打ち明けられる友達はいない……。

 はぁ~~~。王女って立場はつらいわ。


  ノブレス・オブリージュなんて呪いの言葉、無くなればいいのに……。

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