第二章 レイシア担当者の苦悩 317~318話
レイシアがまたトラブルを起こしそうだ!
いつの間にかレイシア担当みたいになってしまった俺。なぜ王子の俺が⁈ 仕方ないんだ。Aクラス相当の学力と俺が全力を出しても対応できる武力持ちのレイシア。それなのに貴族としての常識も、人間関係も、とりなし方も知らない田舎者なんか誰がフォローできる? 俺ですら振り回されているんだ。他のやつらが耐えられるわけないだろ? 教師たちからもレイシアがいると無言のプレッシャーをかけられるしな。うん。仕方ないんだ。
まあ、真面目ではあるし努力家。それは認めよう。しかし今度は何で呼び出されるんだ? 俺が! 決闘? 誰と? 元騎士団員? 何で! 姉に手伝わされている生徒会の事務仕事を放棄して会場に向かった。
◇
フライパン……。またこいつは……。ああ、辛いよな、あの終われない感じ。そうだよな。プライドがあるしね。
ああ、負けてもいいんだよ。あれは規格外だから。
おれは下手な三文芝居を見るような気持ちで、この戦いの
◇
で、なんで騎士団に行く! 何しでかすか分からないレイシア。俺がついて行かないとダメじゃないか! ドンケル先生に掛け合い無理やりついて行くことにした。今思えば、ドンケル先生にはめられた気もするけど。
酷いな。特に二人目。女性に何を言っているんだ。これが騎士団か? 騎士の誇りとはなんだ。ああ、ボコボコにされている。どうなっているんだ?レイシアの周りは。メイドってみんなあんな感じじゃないよな。あれ? 俺がおかしいのか?
◇
三人目がいない。え? 俺? 俺出てもいいの? 待てまて、感情を悟られるな。しぶしぶって形で交換条件を出してと。まあそれっぽく言っとけばいいや。後で考えよう。……よっしゃー! 俺はうきうきした気持ちで闘技場に立った。
「では決闘の条件を」
「ありません」
おや、王子相手に何もないのか? 大概の事は叶えられるぞ?
「ないのか?」
「ええ。好きで出向いた訳ではないので」
「そうか」
やる気がないだけか? それとも存外真面目なのか? 先の二人とは違う感じがするな。
「アルフレッド君は?」
先生が聞いてきた。そうだな
「なら、俺も条件なしでいい。だが、このままでは騎士団に失望するばかりだ。騎士の強さを見せてくれ」
まだ足りない? いや目の感じが変わった? ならば!
「メイドに負ける騎士は必要なのか?」
「確かに。おっしゃる通りですね」
間髪入れずに返してきた。ははは。そうでなくてはな。
身構え剣を合わせる。
……強い。ああ。俺はまだまだだ。手加減されているのが
俺は呼吸を整え、全力で渾身の一打を放った。
切られた! そう思った腕は痛みしかなく出血は無かった。峰打ちか。
「勝者、アルフレッド!」
会場から歓声が上がる。だが今のは相打ち。いや、わざと切られたのか?
「わざと切られたな」
「当たり前です。王子を守るのが騎士ですから」
「ふふふ。その態度はいいは。お前のような騎士ばかりだったらどんなによいだろうか」
俺は周りの騎士とパワハーラを見て心からそう思った。
「騎士団の最高司令は王です。王子が王になった時にはぜひ改革を」
「分かった。心に留めよう」
俺のなすべきことが見えた。まずはあの男を追放しなくては。
そしてレイシアの戦いが始まる。
やり過ぎだ、バカ! 騎士の方たち引きまくってるよ! テニスの試合じゃないんだから! それ以上やったら虐殺だ! 先生、早くやめさせて~!
これから祝賀会? 飲ませるな! 先生
◇
レイシアたちと別れ学園に戻った俺は生徒会室に行った。会長の姉に報告をすると鼻で笑われた。そんなことより書類をまとめろ? はいソウデスネ。見ていない人に伝わるわけがないな。一応報告はしたからな。それにしても書類多いな。
◇
王都での俺が使っている別荘に帰ると王宮に明日来るようにと伝言が来ていた。今日の騎士団の騒ぎが伝わったようだ。正式に父に伝わっているといいんだが。独り冷たい料理を食べながら、レイシアたちが祝賀会をしている事を思い出した。
わきゃわきゃと楽しくやっているんだろうな。温かい料理を食べながら。
冷めたスープを飲みながら、そんな妄想をしていた。
◇
父に騎士団での出来事を話した。先に報告が上がっていたようで、話し終わるまでは黙って聞いてもらえた。黙って聞いてもらえたのはありがたいが、リアクションがないと自分で言っておきながらなんとも嘘くさい話に聞こえるのはなんでだ⁉ 噓偽りなく話せば話すほど、自分でもありえない話に聞こえてくる。シーンとした中で、メイドがトレイとワイン瓶で騎士を手玉に取る様を語っているのは辛い。まだレイシアの
「信じられんな」
ああソウデスネ! 俺だって目の前で見ていて信じられなかったですよ!
「しかし、報告書の内容と筋だけはあっているな」
「報告書、確認させてもらえますか?」
執事から報告書が手渡され、目を通した。なんだこれは―――! 思わず叫びそうになった。いや、父の手前心の中だけで収めたけど。
それは、あまりにも淡々と書かれた報告書だった。
報告書
日時 5月23日(金)午前10時~午後1時まで
場所 騎士団訓練所
騎士団の訓練所に於いて、パワハーラ・ダメック人事部長(以下パワハーラ)の申し立てによる決闘の再試合が行われた。息子ムッダー・ダメック(以下ムッダー)への決闘の無効を申し入れる。
対戦相手は学園生レイシア・ターナー子爵令嬢(以下レイシア)。
立会人 ドンケル・ダークベ(学園指導教諭。以下ドンケル)
なお、パワハーラの提案により、代理による3回戦形式。
勝利時の条件
パワハーラ 息子の決闘の無効。
レイシア パワハーラとの決闘。
第一回戦
騎士対従者 騎士惜敗のため レイシア側勝利
第二回戦
騎士対従者 ルール上の不備のため無効試合
第三回戦
騎士対友人 友人としてアルフレッド王子が参戦。レイシアが同学年であり同じ騎士コースの補助員として見学に来ていたところ、レイシア側の人材不足により急遽参加した模様。騎士は王子に花を持たせるため惜敗を選んだ。レイシア側勝利。
レイシア側勝利により、レイシア対パワハーラの決闘が行われる。
勝利時の条件
レイシア 王子アルフレッドに一日人事部長の権利を要求
パワハーラ レイシアの従者2人を請求
騎士団とは言え事務方のパワハーラと、学生とは言え騎士コースのコーチングスチューデントを務める実力のレイシア。
絶対的な不利の状況にも関わらず、5分以上攻撃に耐え善戦を尽くしたパワハーラ。
第一回戦が数十秒で終わったことと比較した時、騎士団としての誇りを胸に戦い抜いたパワハーラの矜持は、負けたとはいえ称賛を送らなければいけない。
結果、パワハーラの惜敗。勝者レイシア。
なお、勝利条件の王子アルフレッド様の一日人事部長については、後日関係者の話し合いのうえ日程調整する。
◇
なんだこれは……。
「お前の名前と勝利条件がこれだったので事情を聞こうと呼んだのだが、あまりにも書いている内容とお前の話がずれているのだが……、いや大筋では間違ってはないが内容がな。どうにもおかしくはないか?」
「間違ったことは書いてないのですが、あまりにも騎士団を美化していますね」
「まず、従者というのはメイドなのか?」
「メイドです」
「メイドに負けたのか」
「一方的でした」
ああ、やはり見ないと分からないよな。変な顔になっている。何を答えても、どれだけ説明しても、説明する俺の方がおかしく見えるよね。そりゃあそうだ。話しながら(何を言っているんだこいつ)と冷静な自分が突っ込みを入れているのだから。
それでも、騎士団のセクハラ男とパワハーラの腐った人格は伝わったようだ。
「それで、一日人事部長で何をする気だ?」
「パワハーラとダダン、ああ、2番目のセクハラ男ですね、の解任をしようかと思っています」
「だめだな」
は? どう見ても解任でいいだろ。
「帝国の動きが中々香ばしい」
えっ?
「騎士団、衛兵はじめ、各部署に帝国のスパイが混ざり込んでいる。まあ元からいるし全排除してもそれはそれで問題があるから泳がせていたり、逆に間違った情報を与えたりしていたんだが最近の動きが焦げ臭くてな。少し動こうとしていた所だ。パワハーラは騎士団の中でやり過ぎた男だ。アルフレッド、どうせなら背後関係を洗って粛清してみたらどうだ? 王太子としてここらで一旗揚げておくのもいいかもしれん。まあ、背後関係は調べ上げてはあるが儂から聞いたのでは面白くもないだろう。お前の実力を評価してやろう。騎士団、好きに改革して見ろ」
父に認められたのか? いや試されているんだ。俺は「はい」と返事をし、期待を胸に抱いて家に帰った。
◇
翌日、ドンケル先生に相談に行った。話を聞いた先生は俺にアドバイスをくれた。
「そういう事でしたら、私の以前の職場にご案内いたしましょう。参謀部の資料室には全ての書類の写しが保管されています。その書類を読み解ければ、不正の証拠も情報の流れも分かるはずです。読み解ければの話ですが。読むべき書類の方向性はお教えいたしましょう。解答を知りたければ、王子として命令下さればお教えしますが、それではせっかくの課題が台無しでしょう? いかがいたしますか?」
ドンケル先生は俺の事を試している。口元がニヤついているのはわざとだな。俺は生徒会の仕事を休み、空き時間は全て資料室に通った。
◇
ある日、レイシアが上級生を連れて俺に会いに来た。あれは以前に会ったラノベ作家のイリア・ノベライツ。なんだ? あの決闘の取材をしたい? ああ、同じ寮だからレイシアからは話は聞いているのか。なら伝わるな。俺は聞かれていないことまで話した。だって話して理解出来るやつなんかそうそういないのだから!
「王子の表現までこうだと、書きがいがあるわ」
「まて、この話をラノベにするのか?」
「もちろんです! こんなネタほっとけないじゃないですか」
目をキラキラさせながら話すイリア・ノベライツに俺は言った。
「書いても売れないぞ」
「なぜですか!」
「俺がいくら話をして説明しても誰も理解できなかったんだ。真実は小説より奇なりとは言うが、ありえなさ過ぎて受け入れられないだろう」
イリア・ノベライツは我に返ったようにおとなしくなった。
「いけると思ったのに」
「そうだな。だが騎士がメイドにフォークやトレイで負けると思うか? レイシアを知らない状況で」
「……無理ですね」
話しながらいいアイデアがひらめいた。
「だが、これがドキュメンタリーだったらどうだ?」
「へ?」
「俺が王子として解説文を書いてやろう。それから俺と戦った騎士にもインタビューさせてやろう。レイシア側、騎士側、それに俺だ。中立なものになると思わないか」
「それいい! 全力で書かせて頂きます!」
「だが、条件がある」
「はい?」
「書いたら俺にチェックさせろ。それから出版のタイミングは俺が決める」
「見せるのはいいですが、出版のタイミングはなぜ?」
ああ、今俺悪い顔しているんだろうな。口元が緩んでいるのが分かる。
「一番売れるタイミングに出させてやるよ。明日騎士に会わせてやる。一週間後に初稿を提出。いいな」
俺はイリア・ノベライツを使って、世間に騎士団改革をアピールする手段を得た。
見てろよ。俺に任せたことを後悔させてやる。
俺はイリア・ノベライツに、書いてもらいたい騎士団内部の秘密情報を話し始めた。
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