第3話 白昼の市街戦
6月7日(日曜日)午前10時、矢嶋組が早速行動を開始する。
末崎ら矢嶋組組員数人は東雲ビルを出て、郷田会傘下組織の岡本組の組員・阿部公孝(20歳)を阿部の自宅の付近で、拳銃を突きつけて拉致、東雲ビル3階に監禁したのだ。
刑務所から出てきたばかりの阿部はどうやら自分の組がどういう状況か分かっていなかったようである。
そして午前11時、岡本組・岡本雅博(29歳)組長に電話をかけて、「テメーんとこの若いモン預かっとるから受け取りに来んかい」と挑発し、これを受けた岡本組組員・金昌二(22歳)や野中義人はじめ4人が自動車2台に分乗して東雲ビルに急行する。
言うまでもなく金たちは猟銃や拳銃などの道具持参だった。
午前11時50分頃、東雲ビルの近くまで来た岡本組組員の乗る車2台は、通りを歩いていた矢嶋組組員である先日舎弟を置いて逃げた末崎ら2名と出くわす。
末崎たちは拳銃を持っていたが、分が悪いと見て逃走。
発砲しながら追ってくる乗用車2台に応射しながら、東雲ビルに向かって走っていく。
この際に、末崎が猟銃の散弾を受けて負傷したものの、2人とも東雲ビルに逃げ込むことに成功した。
ビル内の矢嶋組事務所には末崎含め同組員が8人おり、岡本組の車2台が東雲ビル前の路上に到着するや、3階の窓から数人が車2台にめがけて、拳銃や猟銃、ライフルを発砲、岡本組組員の野中と金、もう一人の組員(19歳)が被弾する。
岡本組の組員たちも車を盾に応戦し、白昼堂々の銃撃戦が始まった。
あさま山荘や少年ライフル魔の事件のように犯人の側がほぼ一方的に銃撃するものではなく、銃器を持った双方が互いを狙って複数発撃ち合う正真正銘の銃撃戦である。
これら一連の銃撃戦は市内の公衆の面前で行われたために、管轄の松山東警察署には110番通報が殺到、12時5分頃には通報を受けた同署の捜査員6名が防弾チョッキ着用で東雲ビル前に急行したが、この人数で足りるわけがない。
とは言え、警官の出現はすで3人が負傷している岡本組組員たちには効果があったようで、4人は車に乗って逃走した。
彼らはその後、犯行に使った銃器持参で警察署に出頭している。
だが、問題は東雲ビルにいる矢嶋組の組員たち8人である。
彼らは、そのまま銃器を持って籠城を続けていたのだ。
ビル内には、人質にされた岡本組の阿部もいる。
午後1時頃、非常招集に応じた松山東警察署員が現場に到着し、東雲ビルの周りの交通を遮断。
最終的には各警察署から応援で駆け付けた約250名の警官隊がビルを包囲する。
また、この日は日曜日であったこともあって、現場には野次馬が約千人も集まってきた。
警察は、籠城する組員たちに投降を呼びかけたが、全く応じる気配がないどころか、それに威嚇射撃で答え、その銃口を警官隊の次にうっとうしい野次馬たちにも向けて「撃ったろか、うっとうしいんじゃい!」と吠える始末。
午後2時半に、最初の銃撃戦で被弾した矢嶋組組員の末崎が人質の阿部を連れた上にライフルと猟銃、拳銃を持って投降したが、残る7人は時々威嚇の発砲をしながら立てこもり続けた。
その後、説得を続ける警官隊に対し、籠城する矢嶋組組員の一人である片岡正郎(23歳)が「午後4時までに全員降りてくる」と答えはしたが、午後4時を過ぎても投降してくる気配はない。
警察の側にも、強硬手段を講じる時が来た。
警官隊は予告の上、東雲ビルの3階の窓へ催涙弾2発を撃ち込んで20名で突入。
乱闘の末、矢嶋組組員7人全員を逮捕した。
矢嶋組のヤクザたちは銃器こそ持っていたが、それを使うことなく拳で抵抗したらしい。
この突入で警官2人が負傷、その腹いせか、組員たちは警官に殴られながら連行されていった。
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