第5章 美しく強い神 〝癌〟

 かつては長年、癌が歓迎されず忌み嫌われる時代が続いたそうだ。だが遠い過去の事だ。今では「お前はこのクラスの癌だ!」と先生に初めて言われた低学年の子供たちの多くは、褒められたと思い、少し賢い子たちは不思議な表現だと思い電子辞書を調べた。発言した先生も語源など気にせず使っていた。いずれにせよ、癌に負のイメージは無い時代だ。だから、医師といえども癌の治療法なんて誰も思いつかない。ましては 〝癌撲滅〟 なんて。彼らにとって 〝癌〟 は美しく強い神だ。


 最初は大昔の文献を引っ張り出し、悪性癌の治療方法が採用された。化学療法、放射線療法、免疫療法。どれも中途半端だった。癌はやはりしぶとい。〝癌撲滅〟は困難を極めた。と同時に規律制御党を離脱した原生人間たちによるキャンサー・パーソン化規制反対運動が盛り上がり始めた。癌撲滅はより遠のいた。キャンサー・パーソンは増え続け、人口爆発は迫っていた。

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