第7話ボーセイヌは街並みが気になる
「なるようになっているってことか」
オレは俺の知識からシャリーヌは領主の悪行や不正を暴くために働いていることを知っているし、彼女のような宰相直下の内偵になれば緊急時に執行官としての権限すら所持していることも承知している。
そんなシャリーヌがいるいうことは、そういうことだ。
「それでは、ボーセイヌ様。本日の講義はここまでと致します」
ボーセイヌは部屋から退出したシャリーヌが屋敷をあとにする姿を自室のある二階から眺めていた。
さて、どうしようか……ゲーム設定によるとこの領は後ろ暗いことは山ほどあるにもかかわらず尻尾を出さない叔父に苦戦することになるとあったので、調査自体はまだまだこれからのはずだ。
「ふむ。そうだな。これからどうにかなるにしても、いまの領内の様子は把握してきたいな」
オレは使用人に屋敷を出る旨を伝えて護衛として雇われている元王宮騎士のアリフールを呼ばせた。アリフールの主任務はオレの護衛ということになっているが常に張り付いているわけではなく普段は屋敷の警備をしている。
「お待たせ致しました」
アリフールは上背が190を超えるほどの大男で胸板は厚く太い両腕に大地に根差す大木のように頑強な両足をもった男であった。
この明らかに強そうな見た目通りに普通に強い。裏で口にするのを憚るような行いしている領主家だけあって、それなりの金を積んで屈強な護衛を何人も抱えているにもかかわらず、本気になった元王宮騎士のアリフールに敵う者はいないだろう。
ちなみに、王宮騎士は家督を継げない貴族子息にとって垂涎の出世街道であり上り詰められる最高位である。かりに、平民が騎士道を夢見るのであるなら軍に入って大きな功績をあげる道しかない。そのため、この話は平民にとってはみるだけの花と言われていた。
そしてアリフールは驚くべきことに平民の出であった。つまりは不可能を現実のものとした男である。
しかしながら、そうした出世物語が美談として語られる裏側はドロドロと重苦しいものであった。なぜなら王宮騎士は貴族子息から選ばれるものという価値観が大半を占めていたからだ。
だからこそ望外の出世を果たした平民への妬みは凄まじいものがあり、アリフールはつねに気をもんで任務に当たらなければならなかった。また幼い娘が原因不明の病を患ってしまったことで必要になった多額の治療費がアリフールに重くのしかかることになる。
叔父は、そんなアリフールを王宮騎士より高い報酬と娘の病を治す方法を探すことを条件に提示して引っ張ってきたのだ。叔父は王宮のこうした情報も仕入れているあたり情報の大切さをよく理解している。
「めったなことはできないな」
ボーセイヌはそうポツリとつぶやくと屈強な護衛を従えて街にでた。
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