第6話女は潜入を果たす
「ここがあの領主の屋敷がある街ね」
女は領主が私腹を肥やし悪党によって領民が苦しんでいると告発があった領地に内偵のために訪れていた。
この地の領主は少し前に病死していた。その跡を継ぐ子息はまだ成人前ということもあって政務は親族が代行しているという。
「整てられた街並みにくらべて活気がないわね」
この地の前領主は領民を家畜と公言するような男で、為政者として不適格な人物と言わざるを得ない人物であったようだ。
それが判明したのは前領主夫妻が死亡したことによる領内統治の綻びからであった。
そして実際のところ、内偵自体は宰相の命によって前領主の時代から込まれてはいた。にもかかわらず、これまで領主の悪行が野放し状態であったのは、その内偵の者が領主側に買収されていたからにほかならなかった。
「まずは拠点を作らなくちゃいけないわ」
そして買収されていた内偵は領主交代の折にそのまま行方をくらすことになる。異変に気付いた宰相よって私が派遣されたわけだが時すでに遅く、調査の結果上記のことだけは判明したが、領主の不正に関わる直接的な証拠自体を得るにはいたらずに手をこまねくことになった。
「それに前任者の動向の調査もある。とにもかくにも慎重にことを進めないといけない」
この王国では、領主にはある程度の裁量権が与えらえており課せられている税についても逸脱していなければ国王であってもは過度な口出しはできない。そして、この地の前領主、いや、現領主はそのあたりの差配が絶妙であった。
「本当に知恵のまわる悪党は厄介だわ」
私の前任者も宰相閣下の御眼鏡にかなう忠実で優秀な者であったはずだ。それこそ自然に街に込んでいたはずなのに。
わずかなミスで素性が公になる可能性もある。慎重に、けれど、迅速にことを運ばなくては……。
そのおもいとは裏腹に手をこまねく日々が続いていく。苦渋な選択だった。機会が訪れるのをじっと待った。
そして2年におよび待ち続け、ついに、チャンスが巡ってきた。今年11歳になる嫡男の専属講師がクビになったようで新たに手配をするという情報を得えることに成功したのだ。
領主家嫡男の専属講師ならごく自然に領主屋敷に潜入できるうえに、隙をみて決定的な証拠を押さえることすらできるかもしれない。
ここが勝負どころだ。
この2年をただ手をこまねいていたわけじゃない。いつかくるチャンスのために広げていた伝手を使うことで選考に名前を潜り込りこませた。
そして私は基本的な貴族のマナー全般から学問、魔法に至るまですべてのことを潜入調査のために叩きこまれている。
「だからほかの候補者と並び立てれさえすれば……私は負けない」
さらに最終的な可否は面談によって決まることもわかった。面談日はいまから、1週間後。どうやら候補は私を含め3人のようだ。
「私はこの機会を活かすためには手段は選ばない。上に報告して他の候補者を自ずから辞退させる方向での調整もした。あとは」
面談当日。面談は予定通りに行われ、私は適度な実力を示すことで見事に採用を勝ち取ることができた。
それからしばらくして、領主の屋敷にて初の講義を迎えることになり私はボウセイ家の嫡男ボーセイヌ・ボウセイと初対面を果たした。
「本日よりマナーから学問全般を教える立場となりましたシャリーヌ・スーシと申します」
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