第5話なるようになっているようだ
生きるためだ。
使用人に尊大な態度をとって当たり前のように暴言を吐きときに婚約者のマーサを叩いて突き飛ばしたボーセイヌ・ボウセイはもういない。
生きるためだ。
そう心の中でいくら理屈をならべてもオレには、もう同じ振る舞いをすることはできなかった。
生きるためなんだ。
それでも、オレにできる精一杯は相手を見下すように「フンっ」や「チっ」と話すことすら不愉快なんだとみせることだけだった。
無理なんだ。
まだ幼さゆえの部分はあったけれど記憶が生えた今、その行為につよい罪悪感が湧き出てくるんだ。
できない。
おかしく思われていないないだろうか…
そんなボーセイヌの心配をよそに使用人たちは癇癪持ちの嫡子が普段より大人してよかったな。くらいの認識のようで違和を覚えるものはいなかった。
……そうだ、この方向に路線を変更しよう。なるべく、口数を少なくして偉そうな態度でごまかしていけば、なんとかいける。
ボーセイヌが行動指針を決定してから数日後のこと。ボーセイヌのもとに専属の講師が姿をみせていた。
「ボーセイヌ様、授業のお時間です」
「わかった。入れ」
一か月前に始まった専属講師による講義は週に2回あった。貴族の子息として必要となる基礎知識からはじまって現在は魔法についての講義だ。
専属講師とは記憶が生えてからは初めての顔合わせになる。ボロをださないようにしなければ。
「それでは今日は初の魔法の授業ということで、まずは魔力量と属性を調べていきます。こちらの水晶に手をかざしていただけますか」
机上には、おとなの握りこぶし二つ分くらいの透き通った水晶石が設置されている。ボーセイヌが手をかざすと、黄色に輝き、次に、黒く淀んだ。
「どうやら雷属性が得意で、弱いですが闇属性が補助の2属性をお持ちのようです。潜在的な魔力量は、並みよりは高いといった輝きかと思われます」
まずこの世界は、光、闇、火、水、地、風、雷、木の8つの属性が存在する。
次に魔法の素養は、主属性と補助属性の二種類あり、主属性は成長性が高く補助属性は低い。
そして、光と闇を主属性に持って生まれる者はほぼおらず、光と闇を除いた6つの属性に、主属性以外の五つの補助属性がおもな組み合わせであり、補助に光と闇が入るのは比較的に稀なケースである。
「オレは雷の主属性に闇の補助属性の組み合わせか」
そういう意味ではオレは稀なケースだ。がそれでも特別レアというレベルではなく、いるところにはいるという程度だ。
主属性は伸びやすく、補助はほとんど、伸びない。ゲームでもボーセイヌは雷魔法で攻撃しながら、闇魔法でデバフをするスタイルだったからおかしくはない。
そこでふとおもった。「マインドマイン」は闇魔法に属する上級魔法なのだ。
ボーセイヌが主人公との対決で使用していたことからオレも扱えるようになるはずなのに、闇は補助属性ということで適正からすると扱えるのはせいぜい初級までで、よくて中級に届くといったところのはずだ。
つまり本来なら扱えないはずなのだ。なにか方法があるのか……。
そう考え込んでいると講師から「どうかなさいましたか?」と声を掛けられた。
「いやなんでもない、続けてくれ」
講義のおかげで大まかな魔法の種類などはRPGと同じであることはわかったけれど、効果についてはどうやら差異がおきているようだった。
具体的な例として「ショック」という魔法があるのだがこれは相手を痺れさせるだけで殺傷能力は皆無の魔法だった。しかしこの世界の解釈では、「痺れをおこす雷属性魔法」であって、弱っている相手にかけると死ぬ可能性があるそうだ。
そのような実例を挙げた丁寧な説明がされたために、このことに気付くことができたのは幸いであった。思わぬ失敗をしないように、確認していくべきだな。
そうして終わった講義は非常に有益だった。さすがはシャリーヌだ。
そう、オレの講師は知的女性キャラのシャリーヌ・スーシであった。どういうわけか、この屋敷に彼女はオレの専属講師として現れたのだ。
「いや、どういうわけか」をオレは知っている。
「あらためて考えてみるとなるようになっているのか」
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