第4話平凡な日常にも譲れないなにかがあった
「……死にたくねえ」
この世界がゲームのシナリオのように動いていくのかは定かではないけれど知識として有してる情報に備えることは必要だろう。
けれど、現状として洗脳などからの魔法的な自衛の手段は思い当る節がない。その上、父、叔父による領民への搾取が続いたら、溜まりに溜まったヘイトがのちのち領主になるオレに降りかかるのは明白な案件であるため、できることなら改善をしていきたい所存ではある。
ある。あるっちゃぁあるけど、急な行動は悪手に思えた。
彼らにとって領民は、搾取されることが前提の存在なのだ。足りないものは、搾りとり、それでも足りないときは、引きちぎってでも搾ればいいと、ごく当たり前に考えている。
それゆえに、オレは安易に領民の味方をするようなことは口にしない。
それは、彼らにとってオレという存在はバカでクズで頭も程よく悪く担ぎやすい神輿であると思って頂いている方がオレの都合がいいからだ。ただの神輿の跡取りが、唐突に至極まともなことを言い出したら、おかしくなったと躾けというなにかがはいるのは火を見るよりも明らかだし、そんなのごめんだ。
だから、オレが改悛したなんてまちがっても叔父に悟らせるような行動をするわけにはいかない。
「かと言って、いまのオレじゃないおれの振る舞いを続けるのは……」
罪悪感がハンパない。
おれには抵抗がなくても生えた俺の記憶から生まれた感情は「無理だ。できないよ」と胸のうちで訴えていた。
それは、俺が立派な人間だったからとかじゃなくて、ただジャポンという国に生まれて、普通に、一般的な規範意識を育んで、人の迷惑にならないよう可もなく不可もない生活をしてきただけの記憶が、おれのこれまでの行いを明確に拒絶しているだけだ。
「ハハ。なんだよ。安穏とした機械的な毎日がじつは、とても恵まれてたってか……」
毎日。逃げ出したかったんだ。
つまらない日常から。
だけど、積極的に死にたかったわけでもない。
ただ朝を迎えても、起きたくなかったし、夜がくれば、静かに、永遠の眠りにつきたかっただけだ。
毎日。毎日。毎日。
そうやって生きてきただけなのに。
「……そんな自分にも守りたい誇りみたいなものがあったってことなのかなあ」
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