第3話現実なゲーム世界に生まれたオレは現実を知る

「先行きが暗くてつらい……」




 だめだ。ここで気を落として怠惰に過ごしても、オレのこれからが好転するわけじゃない。




 気を取り直して、オレの現状を語ろう。


 オレの両親はすでに死去している。とはいえオレに哀しさはまったくなかった。なぜなら、オレの記憶にある両親は碌な人物ではなかったからだ。


「貴族以外は家畜である。」を地で行く人間だ。そんな男が領民は勝手に増えて、ひとりでにお金になる。と考えればすることは単純で内訳は楽しい話ではない。


「税という名目で取り立てて、払えぬものは奴隷として売ればいい。」と人道も糞もない話に行きつくだけなのだ。この屋敷にならぶ趣味の悪い調度品は、その名残である。


 そして現在、オレの代わり、つまりは代理領主という立場で領内を治めているのがボウセイ領の運営を補佐していた父方の叔父である。


 この叔父のやっかいなところは父親とどっこいどっこいの性根をもちながら、父よりも狡猾かつ残忍で頭の回転も早いときている。そう、実質領内の政治を取り仕切っていたのはこの叔父なのだ。 


 そして統治者としてある意味で優秀な叔父は、この国の制度もよく理解していた。


 この国の制度上、いまボウセイ家唯一の実子であるオレが15歳を迎える前にいなくなった場合、国はボウセイ男爵家に対して「統治の資格なし」と判断を下して現領主家の取り潰しを行う。そして新たに中央から男爵位相当の者が派遣されることになる。


 そうなっては困る叔父は、ボウセイ家に恨みを持つ外敵からオレを守り抜くべく腕利きの護衛を雇ったくらいだ。そこまでは、良い。


 けれど、オレが15を迎えれば、叔父は代理領主の立場から領地を持たないただの親戚になり下がってしまう。そうなってしまったら、もう甘い汁を啜り続けられなくなる。と考えるかもしれない。


 ならばどうするのか。


 答えは簡単だ。オレを取り込んだ傀儡政治。これだろう。


 そこで問題になるのが、その方法になる。


 この世界は、魔法が存在していて、魔法の籠った一品も存在している。例えば、暗闇を照らすマジックランタンなどは、この世界の必需品の最たるものだろう。これは、魔石に光を発する魔法を封じたものを光源としており、少ない魔力で灯りを点せる一品である。このようなマジックランタンをはじめとして日常生活に役立つ魔法の籠った商品は無数に存在しているわけだが、当然、その逆も存在する。




 そう、魔法の有用性に善悪は関係ない。




 その最たるものが『マインドマイン』という相手を操る魔法の存在だ。


 これは、ゲーム的いえば、洗脳系の魔法の一種で、相手を混乱させて、一定ターン数操る類の魔法になる。相手を意識を混濁させて操る。ゲーム的なら、そういうものだなと思考を切り捨てても問題はないけれど、それが、現実にあるとすれば、到底看過できる魔法でない。ない、のだが、おれという記憶に、その魔法の存在はなかった。




 オレは、これをどう考えるべきなのか。単におれが知らなかったのか、または、存在しないのか、或いは、危険な魔法として、その存在自体が秘匿管理されているのか。


 その答えはでないけれど、この世界にあることを前提に考えておくべきだろう。なぜなら、これが相手に気付かせない形で行われ、思考の誘導などに使われているとしたら、これほど恐ろしいことはないからだ。


 そのために、なにか自衛する手段を早めに用意しなければ………。と、ゲームの知識から引っ張りだそうとして、オレはゲーム知識と現実の差異に気付くことになった。




 ……この世界は、死んだら生き返るような世界じゃないんだ、と。




 ゲームのように死んだらセーブポイントで生き返る。なんてことはなく、腐る前に埋葬されておしまいだ。




「……死にたくねえ」

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