第2話おれと俺が混ざってオレになった話

「どういうことっ!?」


 オレは部屋に備え付けられた姿見を前にした。そこに映ったのは、まぎれもないオレこと、とあるRPGゲームの悪役令息ボーセイヌ・ボウセイであった。


「オレがボーセイヌ・ボウセイに……だめだ、意味がわからない」


 ボーセイヌ・ボウセイは、ある異世界ファンジーRPGに出てくる悪政を敷く領主の息子として登場するキャラクターの一人だ。人物像としては、序盤から登場しては主人公に絡みにいき、ときには、武力を行使しようとして返り討ちにあう敵キャラのひとりになる。そして物語が進むと今度は領主になって現ることになるが、最後には死亡によりゲーム上から去ることになるよくあるアレだ。

 

 そうした記憶に触れてふと遠い懐かさが胸に溢れる。


 ゲームは前時代の端末エスパーステーション後期に発売された名作だ。当時は中学生だったから、ボーセイヌに対して、憤りを覚えて、青臭い正義感に駆られたりもした。世界がおかしくても、おれは流されずに闘うぞ。なんて夢想をしたものだ。


 けれど、現実というのはそんなに甘いものではなかった。年齢を重ねるごとに知ってしまう社会はずいぶん世知辛くて、機械的で、楽しさなんてみつけられなかったな。


 まあ、そんな暗い話はさておき、プレイヤーはボーセイヌの悪政を前にして貴族社会の汚さを学ぶことになる。ここでの説明は省くがとにかくひどい。


 だからこそ、打倒したときの爽快さに仲間内で盛り上がったものだ。


 それと話はそれるが、ボーセイヌとの戦いにおいて必ず仲間にしておいたほうがよい有名な隠しキャラが存在していた。


 名前はシャリーヌ・スーシ。戦闘から探索までを幅広くこなす知的系女性キャラで、彼女にしか見つけることのできない隠しダンジョンはあるし、そこにある強力な武器が入手できたりするので攻略方法をしったならだれもが仲間にするそういうキャラであった。


「やりこんだゲームだっただけによく覚えてるものだけれど、これは俺の記憶だ。なら、おれはどうなったのだろう」 

 そう考えて記憶を整理していく。

 まずオレは俺の記憶とボーセイヌであった頃のおれの記憶の両方がある。そして、その記憶が混ざり合ったことでオレという存在が生まれた。

 

「別人の記憶はあるとはいえ、俺はおれでオレなんだろうと不思議に違和感はない。オレは俺という存在を知識と捉えているのかもしれないが……」


 正直、どうなったかはよくわからない。


 ただ、オレには生えた俺の記憶からこれからさきの展開が浮かんでいて、さらには、俺とおれの記憶が知識となり混ざり合ったことで、これまでにない思考や感情すらも新たに芽生えていた。そのおかげもあって、いまのボーセイヌを1歩引いた視点で見れるようになったようだ。


 そうして、改めて、オレは姿見をみた。


 この容姿はまぎれもなくボーセイヌ・ボウセイだ。というかおれの記憶がそう訴えかけているからくつがえりようもない事実だな。そうとはいえ、俺の記憶からすると、ゲームにおける戦闘中の必殺技のカットシーンや秘奥義の時に移るアニメーション画面の顔が幼くなった、そんな感じにみえる。

 ともすれば、おれの記憶とか俺の記憶とかと混乱しそうなものだが、唐突に生えた記憶はすでに同化してしまい、オレとしての知識に過ぎない。

 

 そして年齢的にRPGゲームにおけるストーリーの開始前だろう。ゲームでは、十三歳から貴族学園に入ることになる。そこで、三年間貴族としての矜持を学び、最終的には領主になる設定だったはずだ。

 いまが11才であるから入学は2年先になる。


 2年か…長いと思うべきか、短いと思うべきか。


「いや。先のことよりも、今の自分の立場を一度確認したほうがいいだろう。なにをするにしても現状の把握は必須。足元からだ」


 まずボーセイヌというキャラクターは、序盤から終盤まで登場する。


 そして要約すると、最後は打倒されると死ぬ、だ。


 主人公はボーセイヌを倒すと「あなたは王国の裁きをうけるべだ」とのセリフ残して、とどめは刺さずに、その場を去っていく。


「くくくっ、どこまでもあまちゃんなやつめ、見ていろ。必ず、かならずだ。復讐してやるぞ」とボーセイヌは壁に寄りかかりながら捨てセリフを吐いて、部屋の奥にある隠し通路で逃亡しようとしている最中に、恨みをもった男に刺されて死ぬことになる。


 セリフは「ここにいたのかっ、マリーの仇!!」であった。


 マリーってだれ!?とはおもったけど、悪政を引く領主からすれば、どこかで犠牲にあった人がいてだれかに憎まれていてもおかしくはない。


「グぁぅっ、う、う、そ、う、か」でオレ氏はあの世へ。


とどめを刺した男もまた「その後、男の姿を見たものはいなかった」で終わる。


 うん、この未来は避けたい。なにが悲しくてわかっている、悲観的な未来を歩かなければならないのか。できるかぎり、良い未来にたどり着きたいと考えるのは当然だろう。しかしながら、ここでマイナスな情報が……。


 すでに、悪政は敷かれている!レールはばっちりだ!!あとは時間になったら乗るだけ!!!そんな状態なのだ。


「先行きが暗くてつらい……」

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