将軍とヒナタ エピローグ

 その後、ゴル将軍は味方の命を惜しむような防御主体の戦術を確立させ、『鉄壁のゴル将軍』の異名を轟かせる。

 五十二才で前線を退くが、その三年後に首都が窮地きゅうちおちいった際、退役兵たいえきへいや見習いばかりを集めた急造の部隊を率いて、防衛戦を行う。

 経験はあるが年を取った引退兵や、不慣れな見習いを率いて敵軍を見事に退け、街を守った。

 だが五十八歳のある日、暴れ馬から幼女を守って命を落とす。内臓を踏みつけられての凄惨せいさんな死であったが、その顔は不思議と穏やかであった。

 最後の言葉は「このツルツルのハゲ頭を、ようやく妻子に触らせてやれるでござるよ」である。


 一方、ヒナタはゴルから習ったセリフを毎日練習した。両親のためだというゴルの言葉を、素直に信じたからだ。

 幸い……というか、不幸にして、一人きりの時間は沢山あった。

 ある夜、両親が喧嘩をし始めると、ヒナタは二人の間に歩み出て、


「オロカモノめが、コはタカラとココロエよ! タカラのめんどうをどちらがみるかで、ケンカをするオヤがどこにいる!? ソボドノがなくなられたいま、コをまもるはオノレたちのみぞ! しゃんとせい、なのよぉ!」


 と、得意げな顔でスラスラと口上をべた。両親は驚いて、目を丸くした。

 二人はそれを「なにかのアニメで覚えたセリフを、そのまま言っただけだろう」と結論づけたが、いずれにしても四歳の子供にそのようなことを言わせてしまった自分たちを大いに恥じて、二人ともできるだけ育休を取って、交代でヒナタの世話をすることに決めた。

 二人は死んだ祖母にどれだけ助けられていたのかを今さら悟り、仏壇に祖母の好物を供え、手を合わせて深く感謝し……そして、週末はヒナタを遊園地に連れて行った。

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異世界いのちの電話 森月真冬 @mafuyu129

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