勇者とケイタ その3
また、沈黙。
それを破ったのは、今度はヒューゴの方だった。
「なあ、ケイタ。よかったら、私の話も聞いてくれないか?」
「あ、はい……。いいですけど」
「私はね。もう、何年も敵と戦い続けてる。魔族やドラゴン、普通の人じゃ相手できないような奴らを倒して、旅をしている」
「え!? もしかしてお兄さん、紛争地帯にいるんですか!? そ、そう言えば……お兄さんの名前、ヒューゴナントカって。日本人の名前じゃない……魔族とかドラゴンっていうのは、マフィアのグループとか兵器かな」
ケイタは受話器の向こうで、ブツブツと自分の考えをまとめている。
ヒューゴは、淡々と落ち着いた声で先を続けた。
「で、つい昨日だよ。仲間が、みんな殺されてしまった」
受話器の向こうで、息を呑む気配がした。
「私たちは、旅の途中でとある村を訪れた。その村に魔族が大群で襲ってきたんだ。たぶん、私たちがそこにいることを、どうやってか突き止めたんだろうね……。村の住人はほとんどが逃げ出したが、何人かは残った。生まれ故郷を離れたくないと言ってね。私たちも、彼らを守るために村に残った。自分たちが呼び寄せたようなものだしね。私たちは、必死で戦ったよ。実力は私たちの方が上だった。敵のほとんどはやっつけた。だけど、ほんの一瞬。あらかた倒して、一瞬だけ気を抜いた、その時だ」
ヒューゴは疲れたようにフウとため息を吐き、それから言った。
「炎が、私たちを包み込んだ。死にかけの魔族の一人が、怒らせたドラゴンを連れてきたんだ。敵も味方も建物も、みんな焼かれた。『死なばもろとも』ってやつだね。その魔族は炎に焼かれながら、勝ち誇った顔をしていたよ。だけど間一髪、仲間が唱えてくれた防御魔法が私だけを包み込んだ。でも、他はみんな死んでしまった」
「そ、そんな……。全員ですか!?」
「ああ。妹みたいに思ってた幼馴染も、何年も一緒に戦ってきた頼れる友も、ペットみたいに可愛がってた荷運びの馬も……みんなみんな、死んでしまった。民家も炎に焼かれた。村人も誰も守れなかった。今までだって一人や二人の仲間を失うことはあったけど、全員が死ぬなんてのは初めてだ。戦いで朽ちた村で生き残ったのは、私一人だけだった。さすがに
絶句していたケイタが言う。
「……な、なんか。お兄さんの話を聞いて、僕、自分がとんでもない甘ったれに思えてきました! ちょっとイジメられたくらいで自殺なんて――」
と、ヒューゴが慌てて遮った。
「いや、そうじゃない! 違うぞ、ケイタ。君は甘ったれてなんかいない! 私は君にそんなことを言わせたくて、自分の話をしたんじゃない」
「えっ?」
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