勇者とケイタ その2
それきり、黙ってしまう。
しばらくの沈黙の後、ようやく声が聞こえる。
「…………イジメです。ありがちですよね」
「イジメか」
「はい。僕、中学でイジメられてるんです。臭いとか、汚いとか、キモいとか言われて。蹴られたり、からかわれたり、お金とられたり、物を隠されたり」
また、長い沈黙。
「…………み、みんなの前で、裸にされたり。女の子たちも、みんな僕を気持ち悪がって。毎日毎日、明日なんてこなければいいのにって思います」
「そうか。それは辛いね」
ケイタは、シクシクと泣き出した。
「う、うん……。くそう! 僕とあいつら、一体なにが違うっていうんだよ……? 同じ人間じゃないかっ! なのに、なんの権利があって、あいつらは僕の人生をメチャクチャにするんだ……? くそ、くそう……」
ヒューゴは、黙ってケイタの泣き声を聞き続ける。
しばらくするとケイタは怒りとやるせなさのこもった声で、絞り出すように言った。
「あ、あいつら……あいつらっ! やられる側の痛みなんて、これっぽっちもわかっちゃいないんだ……! 臭いのも汚いのもキモいのも、みんなお前らがやらせてることだろっ!? な、なのに。ど、どうして……? どうして、どうして!? どうして、どうして、どうしてぇッ!」
後半は、感情がグチャグチャに入り混じったような叫びだった。
どうして、どうして、と。ケイタは、何度も叫び続ける。
ヒューゴは、優しい声で問い返す。
「なにが、『どうして』なんだい?」
「……ど、どうしてなんだよっ! な、なんで、あんな酷い奴らが、平気な顔して毎日楽しく生きてて……。なにも悪い事してない僕が、こんなに苦しんで死のうとしなきゃいけないんだぁッ!」
号泣する声。時折、ヒックヒックとしゃくりあげる
だが胸の内を吐き出してようやく落ち着いたのか、やがてその声も収まった。
そしてまた、しばしの沈黙の後。暗く沈んだ声で、ケイタは話し始める。
「あ、あのっ。お兄さん、ありがとうございました。死ぬ前に、誰かにこうやって話しておきたくて。あなたのおかげで、ちょっとだけ楽になれました」
「そうか、よかった。なあ、ケイタ。君は、まだ死にたい?」
「は、はい。こうやってお兄さんと話してても、やっぱり明日は来ちゃいますし。明日になったら学校でまた、いじめられます。先生は見て見ぬふりだし。……みんなの前で裸にされたなんて、こんなこと。親に知られるのは、死ぬより嫌だし」
「そうか。そうだね。その通りだ。君の問題は、まだ何一つ解決していない。死にたくて当然だ」
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