霧影一族の桃花(つきげ)『それは呪いと云う名の』

 とある王国に新たな姫が生まれることになった。それを祝福するために、多くの人が招待された。しかし、一人だけ、人々から魔女と呼ばれるイザベラには招待が来なかった。それに怒ったイザベラは城に入り込み、姫に恐ろしい呪いをかけた。

「精霊よ、魔女はどのような呪いをかけたのでしょう」

「これは、なんと恐ろしいことでしょう!一日十時間以上の睡眠をとならければならない呪いです」

「なんとか解除できないでしょうか」

「私には無理ですが、姫が本物の愛を知った時に呪いが解けるよう祝福を授けましょう」

 こうして姫は眠りの呪いを受けながら日々をすごした。常に眠たげな表情は可憐で、王も可愛がっていた。しかし、他の人と比べ、姫の学習時間がどうしても短くなってしまい、厳しい指導が続いた。姫は努力を続け、才能があったのか、人並みに、いや人並み以上になった。そんな姫の唯一の楽しみは寝ることだった。お茶会をしようにも、遊ぼうにも、いつも眠たくなってしまうので、寝ることを楽しむことにした。実際に眠ってしまうと色んな夢を見ることできて、とても楽しんでいた。たとえば、このような夢を。

「今日の夢は、これは剣?こうやって振るえばいい?違う?こう?うん、いい感じ……楽しい……」

 そんな姫の様子を王は呪いが進行していると考え、姫の婚約相手を探すことにした。しかし、姫は乗り気でなく、全ての見合いを断った。痺れを切らした王は候補に上がった中で一番信用できる王子に、姫が寝ている時に口付けをするよう依頼した。

「今日の夢は、これはお父様?それにこの人は、確か、お見合いにいた……この人が私のところに来る?呪いを解きに?む、私の楽しみを、邪魔するやつは、成敗……」

 姫は夢で鍛えた剣を、夢で振るった。それは現実とリンクして、姫のところに来た王子を切りつけた。王子は深傷を負い、王からの依頼を諦めることとなった。これをきっかけに姫はより一層こう思った。

「起きてるときは、頑張ってるから、私の楽しみ眠りを、邪魔しないで……ご褒美くれるなら、婚約者じゃなくて、ふかふかのベッドが欲しい……でも、こんな呪い祝福をくれる魔女は、実はいい人なんじゃ……会ったらお礼言わなきゃ……それに比べて精霊は……ほんとうにいらない祝福呪いをくれたよね……」

 こうして、眠り姫は今日も夢の世界に立つ。

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