ショートショート『眠り姫』
名古屋大学文芸サークル
月宮雫『魔王』
これは、 もう駄目だと思った。誰も、何も、わかっていない。
私はこの国の王だった。 国のために、国民のために、私は王としての務めを果たしていたはずだった。
それなのに、すべてが狂った。
百年前、我々は眠りにつき、城は茨に覆われた。そして、目が覚めた時には、 この国は破滅の入り口にあった。
百年。 それは、統治者不在のままでいるには長すぎる時間だった。私が眠っている間に国民は新たな政治制度を作り上げていた。すべてを話し合いの中で決める制度だ。
しかし、 政治のノウハウを持つ者が全員城で眠りについている中で作られた制度。今は騙し騙しやれているが、すぐに問題になりそうな穴がいくつもあった。 私はこの国の王として、それらを指摘した。
しかし、国民は言うことを聞かなかった。百年もたっていれば、生まれた時から王などいなかった者ばかり。彼らにとって私は、ずっと眠っていて今まで何もしてくれなかった無能な王だった。今さら王族などという権力者は受け入れられないようだった。
私の声は誰にも届かなかった。その一方で、姫を呪いから解放した王子の人気は高かった。彼は、現在の国民が築 き上げた政治制度を支持すると言った。彼の人気はますます高まり、相対的に私は以前の権力に固執する悪者になった。
この王子は、護衛もつけず一人でふらふらとやってきて他国の城に侵入する男だ。 母国ではもはや見放されているぼんくら王子。だが、茨を掻き分け姫の呪いを解いた話はドラマティックすぎた。もう、こいつを追い出すことはできない。
無能な王子に穴だらけの政治制度。このままではいけないのはわかりきっているのに、 王子も、姫も、国民も、何もわかっていない。これまで国を動かしてきた重鎮の言葉も、権力に固執する老害の嫌がらせ扱いだ。
これは、もう駄目だ。目が覚めたらいきなり百年後の世界で、それでも私は王として国を導こうとした。だが、無理だった。これはもうどうしようもない。一度壊さなければ直らない。
私は王子と姫の結婚式の招待状から一枚抜き取って燃やした。彼女だけを招待しないのはこれで二度目。度重なる無礼に、今度はどんな呪いを送ってくださるだろうか。
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