第21話 聞き語り2

 知り合いの会社の営業での話。

「これ、一カ月でできませんか?」

 どうみても二カ月はかかる仕事を持って来られた。

 スケジュールを組みなおし、応援を入れ、残業を山ほどするということにして何とか一カ月でできる工数を算出する。

 当然こうすると費用は三倍かかる。工期の前倒しとはこういうものだ。

「それでですね」相手は続ける。

「一カ月でできるんでしょ。では工賃は一カ月分で」

 とんでもない話である。

 これが営業スキルだと豪語する営業は簀巻きにして川に流してしまえ。



 元同僚から聞いた話。

 新人が入った。やる気のある新人で色々なことを質問し、片っ端からメモ帳に書き込んでいく。

 やる気のある新人はベテランたちにも受けがよい。皆一所懸命に色々なことを教えた。

 やがて誰かが気が付いた。

「なんでお前は同じことを三度も四度も聞くんだ? いつも取っているメモは何のためだ?」

 必死で行っていた『使えるヤツ』の演技が剥がれた瞬間である。



 知り合いから聞いた話。

 その人はフリーランスである会社から仕事を貰っている。

 ある日その会社の担当から呼び出され、車で二時間かけて指定の場所へ向かった。

 指定先の喫茶店で会いしばらく会議をする。だがその内容がどうでも良いことばかりだった。

 次の日もまた呼び出された。また片道二時間かけて行くとこれがまたどうでもよいことばかり議題に上る。

 一週間これが続いてはっと気づいた。

 相手は喫茶店でコーヒーを奢らせるために呼び出しているのだと。

 一日潰されコーヒー代とガソリン代はすべて自腹である。これが毎日続くのだから遠からず仕事は破綻する。

 だが担当者は一切気にしていない。自分の権力でコーヒー一杯がタダで飲めるなら下請けにどれだけの迷惑を掛けようが気にはしない。

 人は心の中に餓鬼を飼う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る