第19話 昼ギツネの危ない遊び2
この件で、何よりやばいのはこのケチ専務だ。
ケチ専務は下請けに優しくない。立場の差を使ってネチネチと締め付けて来る男だ。そんな男が下請けを使って下手くそな横領をやる。
密告されない訳がない。
幸いここまでは専務の横領行為も私のただの推測でしかない。振込先の人間も苗字が一致するだけで専務の家族であるという確証もない。だから市民の義務としての通報もまだ生じていない。いい加減な推測だけで通報していたら警察の回線はパンクしてしまう。
だがこちらには何の得もないのに犯罪に巻き込まれてたまるか。お小遣いを稼がせてあげるからねの一言で犯罪を押しつけられてたまるか。
善意の第三者である内に早急にこの関係を断たねば。
さてどうやろうと考えているとまたもや昼ギツネ課長から連絡があった。
「領収書がたくさんあるのですがそちらで処理して貰えますか。何%払えば処理して貰えますか?」
接待費なんかの領収書をこちらで払ったことにして金を浮かしキックバックしろということか。もちろん完全に違法である。
はい、これで完全にクロ確定。
だいたい有限会社程度で接待費をそんなに派手に使ったら税務署に目をつけられるに決まっているだろうが。この馬鹿ども。
犯罪をやるならもっとうまくやれ。これじゃ小学生の火遊びだ。
しかし、こいつらいったいどこまで他人の会社を食い物にしようとするんだ。
特に昼ギツネ。かっての部下をはした金で犯罪に巻き込むんじゃねえ。この人非人が。
「そんなヤバイことには手を出しません。それに色々と問題がありそうなので振り込み仲介もこれにて手を引かせていただきます」
縋って来るかと思ったがそれきり連絡が途絶えた。
半年経ってもう一度電話があった。
「うん、今度ね。他の会社に移ろうと思うんだ。もう古いG社の関係もすべて切ろうと思ってね」
はいはい。で・・私も切るんですね。散々利用しておいて。
「どこに移るかは移ってから教えるから」
はいはい。これで縁切れですね。どうせ教える気はないんでしょ?
だいたい逃げるなら電話なんか掛けてくる必要もないだろうに。
それにこの人は大事なことを忘れている。
この人の横領の証拠を私が全部持っているということを。
「あ、課長。今税務署の人がやってきてですね。四年に一度の税務査察だって言うんです。それでですね。例の振り込み。あの書類見て、これは凄い横領の証拠だ話を詳しく聞かせてくれって呼び出されているんですよ」
こんな電話掛けたらこの昼ギツネ課長はどんな顔をするだろうと夢想する。
でもそうしたらきっとパニックになって警察に駆け込んで自分は無実なんですよなんて余計なことをしそうなので止めておいた。
昼ギツネ課長にはその後、G社関連の別の会社の忘年会で偶然会った。
こちらをちらりと見て元気でやっている?と声をかけてきたがそれ以上は特に話もしなかった。
横で聞いていると他に呼ばれたお客さんと「マイクロソフトの出資で今度新しい会社が・・」とか話をしている。
詐欺の相談なのか、それとも詐欺られようとしている姿なのか。
どちらにしろこれほど脇が甘く不誠実な人間はいつかひどく騙されて終わるだろう。
ずいぶん時間が経ってからふと気が向いたのでケチ専務をネットで調べてみた。
ケチ専務はT社を辞任していた。
やはり密告されて横領がバレたのだろう。自分のやり方はうまく行っていると思い込むのは愚かな犯罪者の常だ。そしてそれをエスカレートされてこうして罰を受ける。
たいがいの犯罪はただ単に周囲が気を使って見ないふりをしているだけなのに。
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