第12話 好好爺

 昼ギツネ課長が現在働いている自分の会社の社長を紹介してきた。


 前に勤めていたG社からの仕事が入ったが問題は口座である。

 G社が所属しているF社の系列は口座制を取っている。G社から口座を貰った会社だけがG社の仕事を受けることができる。そしてこの口座を新しく取得するのが難物なのだ。その理由をG社はこう述べている。

「口座一つの管理に年間150万円がかかるから」

 G社では帳簿に書かれただけの会社情報が一万円札を食べまくるらしい。


 そこで仕事を貰う側は手数料を払い口座を持つ会社を経由することになる。

 もうこの時点で口座制が意味を持たないことが分かる。単なるピンはね構造なのだ。

 昼ギツネ課長に口座を持つ会社に心当たりがないかと相談すると紹介してきたのがこの人だ。


 G社の応接室でニコニコした好好爺が挨拶してくる。見た目七十歳程度に見える。

「会社を興したそうですね。がんばってください」

 警報が頭の中で大きく鳴った。

 外国では初対面の相手に笑い顔を見せて来るのは娼婦か詐欺師と決まっているという。まさにそれだ。笑い顔の裏の悪意が少しばかり透けて見える。

 この時は挨拶だけで終わった。


 代金の6%をピン撥ねされる条件で仲介して貰うことになる。

 しばらく経つとこの社長から電話が来た。

「これから手数料は8%にしてください。ほら手形の割引など色々ありますから」

 後にN課長にG社の支払いについて聞いてみた。

 返って来た答えは・・。

「ウチはいつもニコニコ現金払いだぞ」

 やはりあの社長はこういう人物であったか。


 後に色々な人からこの会社についての噂が流れて来た。

 この社長の会社は毎年やらねばならないはずの年末調整を二年に一度しか行わない。そのため家のローンが組めなくなった社員が辞めたりしている。これはあり得ないことなのでたぶんこの会社は脱税している。

 この会社の各部門は独立採算制で自分の給料は各部門で稼がなくてはいけない。稼げなければその部門だけボーナスどころか給料も無しである。

 これは会社というよりはヤクザの組織に近い。


 やはり初対面で笑顔を見せる人物は信用できない。それは狼がウサギに対して見せる笑みなのだ。

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