第10話 徹夜の夜再び

 今日も徹夜だ。


 作業場所は池袋のサンシャインビル。心霊スポットで有名な場所だ。

 もっとも同僚の作業者はその事を知らなかったからオカルトマニアしか知らないのかもしれない。


 革靴の中に納まりっぱなしの足がひどく臭って心を傷つける。

 誰も助けてくれない。そして助けられない。

 コアな作業を行うプログラマーとは孤独な作業だ。あまりにも情報の奥深くに入り込んでいるので誰も代わりになることができない。誰かに移管しても作業の継続は無理だ。だからかならず自分が答えを出さなくてはいけない。

 プログラムはゴールのないフルマラソンのようなものだ。完成しない限りどれだけ苦しかろうが走り続けなければならない。

 そして上司や仕事の卸元はそれを横で薄ら笑いを浮かべながら突いて楽しむだけなのだ。

 なるほど自殺者が頻発するだけの仕事はある。これだけ自殺率が高いのは政治家の秘書かプログラマーぐらいのものだろう。

 夜逃げするプログラマーも多い。その後始末を任された者も同じように地獄に引きずりこまれる。

 それなのに米国なら年収2000万の仕事が日本では食って通るのがやっとの金額まで落ちる。実に理不尽だ。

 謂うならば日本の会社は作業者に甘えすぎているのだ。だが金を握られている以上主導権は会社の側にある。


 詳細マニュアルの入手に失敗した肝心の営業窓口は海外出張を言い訳に逃げたままだ。彼は逃げるが勝ちという思想を持つ人種で、私はこれからの人生で百人もこの手の人間に出会うことになる。男の半分は無責任で出来ている。


 夕食は取る暇が無かったので真夜中にビル下の松屋に入って卵かけ牛丼を食べる。

 二口食べたところで余りの不味さに食欲を失い席を立った。牛丼とは疲れた胃袋が受け付けられるようなジャンクフードではないのだ。


 一度でいいからマトモな技術者たちと仕事がしたい。この頃からそう思うようになった。

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