第9話 ケチ専務

 やっと新しい仕事が貰えた。

 シャープの子会社からの仕事で、さらに間にT社が入っている。

 ものは外国製の画像チップのドライバ作りだ。

 工数は約一カ月。短期の仕事だ。

 今から思えば実に安い。ドライバ作りは普通は500ぐらいは取るものらしい。それを80なのだから格安だ。

 だがここで窓口となるT社の専務の一人からクレームがついた。

 時は12月。通常は一カ月の工数は20日と計算するが、カレンダーに従うと暮れと正月がかかるため計算上で18日しかない。これが気に入らなかったのだ。

 実に金に細かい専務だ。

 普通はそこまで気にしない。なぜなら一カ月のカレンダー勤務日数が21日や22日になる月も存在するからだ。そのとき20日に調整するために勝手に平日休んでよいのかという問題になる。普通これは許されない代わりに少ない月にも特にクレームは付けないものなのだ。

 だがこのケチ専務はそこを突いて来た。

 仕方ないので休日出勤を二日いれて調整する。

 この恨み忘れまじ。

(実際にはトラブルのために一週間ほど延伸した。もちろんその分は請求できない。下請けの立場の弱さゆえである)


 チップのマニュアルを見て眉を顰めた。わずかに二枚のマニュアルなのだ。レジスタアドレスとレジスタ名だけが書いてある。

 これで一体どうしろと?

 窓口の営業の人にもっとマトモなマニュアルはないのかと訊くと、発行元メーカーに訊いてみると返って来る。

 これに関しては結局最後まで答えが返って来ることはなかった。


 いつもこうだ。無茶ぶりが過ぎるぜ。クズ野郎ども。

 昼ギツネ課長も現場にはいっさい顔を見せない。これで他人様の金をピンはねしようというのだからいい根性をしている。


 仕方ないのでレジスタ名だけを頼りに、色々と類推してレジスタの機能を見つけ出していく。これ実は目隠しをしてルービックキューブをするようなもので凄いことなのだが誰もその大変さを分かってくれるものはいない。

 その内にどうしても挙動がおかしいことにぶつかった。

 上からはまだできないのかとの矢のような催促だ。ええと普通は3か月ぐらいかけて動きを追うのだけどね。そう言い訳したかったが言い訳しないのが私のスタイルだ。

 それまで色々と愚痴に近いことを垂れ流してきてた窓口の人がいきなりBCCを入れて会話のメールを周囲に流し始める。

 おいおい、あんたの我儘を押しつけるところはオフレコで、こちらの工程遅れは大々的に宣伝かい。和という言葉を持たないのかい、こいつは。

 もちろんこれもおぶさりてぇの一種である。


 チップのマニュアルはどうなっている。それがないならせめてこのレジスタの動作の説明だけでもくれと営業の人を突いていたら、連絡が取れなくなった。

 海外出張に出ていますと事務のお姉さんが教えてくれる。

 おいおい・・逃げやがった。

 三日間徹夜するがこのレジスタの追跡だけで止まっている。だがある時、このレジスタに設定した映像信号が周波数自動追跡により書き換わっていることを発見して問題は解決した。

 書き込みだけ属性のレジスタと書いてあるのにそうでは無かったのだ。こんな大事なこといい加減に書くなよ。顔も知らぬ技術者め。


 くそったれが。どこかの誰かが間違ったことをした後始末はすべて私に回って来る。そして周囲の人間すべていい加減で無責任ときている。 ああ、人を殺したい、物を壊したい。

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